夜半、貢は根付けずに1階の演奏部屋を覗いた。

月明かりに照らされたグランドピアノの上に、楽譜が無造作に置かれていた。

誰の楽譜かと、手に取って見る。

「周桜の…… ……俺との伴奏」

赤文字と、鉛筆の色分けした書きこみは波線や二重線、楽譜記号だけではなかった。

解釈を元に、曲をストリー化し、主題ごとに細かく注釈まで書きこんでいる。

矢印、花丸、絵文字、余白にもびっしりと書きこみがされていた。

「こんなに……」

どの楽譜も書きこみでいっぱいだった。

「俺のために」

貢は胸にグッとこみ上げてくるものを感じ、椅子に座りこんだ。

楽譜をなぞるだけの『オールテクニック、ノーミュージック』」

「ヴァイオリンが主役なんです。あなたが主役なんです」

「伴奏もオケも、あなた以外は付属品なんです。あなたが主張して、あなたが引っ張っていくんです」