LIBERTEーー君に

詩月がサロンで演奏するようになって以来、こんなに冷めた空気のサロンは初めてだと思った。

第1楽章が終わると、詩月がスクッと立ち上がった。

貢の肩をポンと叩いて、1礼を促す。

詩月と貢が揃って1礼すると、マルグリットが貢に声をかけた。

「初めてで少し緊張したかしら。詩月との合わせも今日が初めてだったのでしょう?」

マルグリットはどう繕えばいいのか、在り来りの言葉しか思いつかなかった。

「はい、周桜のピアノについていくのが精一杯でした」

それが正直な気持ちなのか、詩月は郁子に「追いかけてこい」と言った時のことを思い出していた。

貢の演奏は実力の差、場数の差、ただそれだけではないと思った。

安坂さんの演奏は変わった、モルダウで聴いた時より、一緒に演奏した時よりも守りに入っていると感じた。

席に戻ると、紅茶はすっかり冷めてしまっていた。