詩月と貢はピアノ演奏を終えた女性が満足げにお辞儀して席に戻ったのを見届けて、静かに席を立った。

貢が楽譜スタンドに楽譜を置き、ヴァイオリンの調弦をする間、詩月は指をほぐしながら、貢の合図を待った。

貢からの合図で詩月と貢が奏で始めたのは、ブラームス/ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第1番 ト長調Op.78。

「雨の歌」というタイトルがついている曲だ。

1楽章から3楽章まであり、全楽章約30分。

アレグロ・モルト・モデラート ト短調の4分の4拍子でロンド形式。

冒頭のロンド主題は歌曲「雨の歌」。

ピアノの音が、雨の雫が零れ落ちるように歌い上げる。

「雨の歌」の主題に、しっとりとしたヴァイオリンの音色が優美に奏られる。

ピアノが第1エピソードのメロディを受けて、リズムを少しずつ変え展開されながら、再びロンド主題が奏でられる。