「BALの新しいピアノもベーゼンドルファーなんだろ?」

「そうなんですよ。元のピアノが兎に角ひどくて」

「えっ、EVEの時に弾いていたピアノだよな。そのひどいピアノ」

ウェイターが1礼しテーブルにそっと、シャトルーデルと紅茶を置き、メニューを引き上げていった。

「大変でしたよ。鳴らない音や狂った音が多くて『クラリネット』の歌みたいな」

「それで、あの演奏……信じられない」

「今はBALに飾ってありますよ。それより、演奏しませんか? ピアノが空いたら」

詩月はピアノにチラと、目を向けた。

「安坂さん、冷めないうちにどうぞ」

20代前半くらいの女性の演奏は悪くはないし、かなり上手い演奏だ。

でも、何か物足りない。

「本当にいいのか? この後、酷な気もするが」