「貢、詩月とかけて。好きなモノを選んでいいわよ。詩月、貢をお願い」

「OK」

マルグリットは慌ただしくも、客には丁寧な挨拶をしながらサロンの奥へ進んでいった。

マルグリットと入れ替わりに、グレーのスーツを着たウェイターがメニューを持ってきた。

「此処のお薦めはシャトルーデルなんです。薄く伸ばした生地で林檎を包んで焼いたケーキで、紅茶によく合うんですよ」

詩月はメニューを開き初めてサロンに連れてこられた時に、マルグリットが薦めたケーキを紹介した。

サロンの客席より1段高くなった舞台には、でんと構えたベーゼンドルファーの白いグランドピアノが、威厳と光沢を放っている。

「すごいピアノだな」

「ええ、幅広いジャンルの音楽に合う音色が出せるピアノです」

『ウィーンの色』と言われているピアノだよな。専門の熟練職人が全て手作業で作っていて、だから量産できないとか」

「ええ、柔らかく豊かな音色なんです。鍵盤が重いのが難点ですけどね」