「でも最近のサラちゃんは心から笑っているっていうのが分かるし、それに何だか綺麗になったって噂なのよ。好きな人が出来たんじゃないかって街の男の子達がソワソワしているらしいのよ」


「ふぇっ!? な、何それっ!?」


 す、好きな人って……! 孤児院の事でいっぱいいっぱいなのに、そんな余裕があるわけ──と思ったところで、私はふと紅玉の瞳を思い出す。


(──っ! 違う違う! そりゃエルはすっごく綺麗な顔をしているし、とても優しいけれど、悪魔だから……! エルは私と相反する存在なんだ!! だから魅了されちゃダメだ!! 負けるな私!!)


 好きか嫌いかはさておき、実際孤児院の危機を救ってくれたのはエルなのだ。だからクラリッサさんが言う通り、私が心から笑える様になったというのなら、それはきっと──……


(……やっぱり、エルのおかげなんだろうなぁ……)


 私は艶やかな黒髪の、美しい悪魔の姿を思い浮かべる。忌むべき色を纏っていても、私は彼に嫌悪感を持った事は一度も無い。

 むしろ一緒にいるとホッとして、温かい気持ちになる。