巫女見習いの私、悪魔に溺愛されたら何故か聖女になってしまいました。


 この街の領主であり、父親でもあるセレドニオが積み上げられた本の間から現れる。その容貌はテオバルトによく似ているが、持っている雰囲気と目の鋭さには領主の風格があった。


「これ以上あの孤児院を放置していたらワシの沽券に関わる。現になぜ援助しないのかと苦情も増えている。あの娘が欲しいのなら早くどうにかしろ」


 セレドニオのその言葉にテオバルトは悔しそうに歯噛みする。領主権限で停止している資金提供が再開されてしまうと、サラが自分を頼ってくれる機会が無くなってしまう。


(ようやく俺と話がしたいって、サラの方から言ってきたのに……!)

「本来なら身寄りが無い孤児上がりの娘が相手など反対するところだが、あの娘は住民達に『ソリヤの聖女』と言われるぐらい人気がある。だから特別に協力してやっているのだ。我が家の名声の一助になると思ってな」


 サラの人気の高さはテオバルトもよく知っている。彼女に懸想する男達の多さも。だからテオバルトは一刻も早くサラを手に入れたかったのだ──他の誰かのものになる前に。


「期限は援助を停止してから一年間──二週間後までだ。分かったな」


 セレドニオはテオバルトにそう言うと書斎から出て行ってしまった。


 そうして一人残されたテオバルトは「クソッ!!」と叫ぶと、悔しそうに歯を食いしばるのだった。