執事がお手本のような所作で挨拶をする。この執事はかなりの高齢でありながら姿勢正しく俊敏で、矍鑠としており全く老いを感じさせない。領主の話ではテオバルトの祖父の時代から仕えているらしいが、年齢は不詳なのだそうだ。
「親父は書斎か?」
テオバルトが執事に問い掛ける。その様子はサラに絡む時とは全く違う、不機嫌で固い表情だった。
「はい、主は読書をしていらっしゃいますが、読書中は誰も邪魔をしないように、と言付かっております」
執事から進言されたテオバルトは苦々しい表情で「チッ」と舌打ちする。テオバルトの父親であるセレドニオは大の読書家で、一旦書斎に籠もると中々出て来ないのだ。
テオバルトはずかずかと廊下を進み、書斎の前に立つとドンドンと扉を叩きながら「親父! 入るぞ!」と言い、中からの返事を待たずに部屋に入った。
書斎の中はまるで図書館のような重厚感のある雰囲気が漂っているが、もちろん図書室は別に作られている。飴色の高級な机の上には本が積み上げられており、その奥にいるであろうセレドニオの姿を隠してしまっている。



