巫女見習いの私、悪魔に溺愛されたら何故か聖女になってしまいました。


 テオが怯んで手の力が弱まった瞬間、バッと腕を振り払う。私がいつも着ている巫女服は年季が入っているので、破れやしないかとヒヤヒヤしていたのだ。


「……っ! 何だよっ! 俺が誘ってやってんのにっ!!」


 今までテオが誘うと女の子はホイホイとついて行ったのだろう。テオは本気で私が嫌がっている事にようやく気付いたらしく、「……っ! じゃあ、もういい! 後で後悔しても遅いからな!!」と、どこぞの小物のような捨て台詞を吐いて去って行った。




 * * * * * *




 ソリヤの街が見渡せる高台に、このリナレス地方を治める領主が住む屋敷がある。

 その屋敷は王都にある貴族街の邸宅と比べると絢爛ではないものの、歴史を感じられる重厚な雰囲気を持っていた。

 屋敷の門には威圧感がある大柄な門番がいて、不審者がいないか常に目を光らせているが、屋敷に近づいてくる人物──領主の息子であるテオバルトの姿を認めると無言で会釈し、屋敷の中に迎え入れる。


 テオバルトが屋敷の中に入ると、執事を筆頭に使用人達が列を作って出迎えた。


「テオバルト様、お帰りなさいませ」