そんな私の言葉に、「カチャン!」とエルのカップが音を立てる。普段冷静そうに見えるエルがものすごく動揺しているのが伝わってきた。
「……貴女、そんな言葉を一体何処で……」
「ん? 司祭様からだけど? 昔はブイブイ言わせていたとか、女に不自由したことがないとか、良く自慢してたな、って」
嘘か本当か分からないけれど、司祭様──お爺ちゃんは昔すっごくモテたのだそうだ。それで色々苦労したとか何とか。
「もう女は懲りごりだから、この辺境に来たって言ってたよ……って、どうしたの?」
エルを見ると、机に両肘を付いた手で顔を覆っていた。今日はよく顔を手で覆う日だなあ。
「……そんなに項垂れなくても……エルだって選びたい放題遊び放題でしょ?」
この美貌だったら女悪魔とか淫魔にもモテモテだろう。きっと美女が選り取り見取りなんだろうな。
「いやいや! そんな不誠実なことはしませんよ!」
項垂れていたエルが顔をガバっと上げて反論する。その赤い顔に、この悪魔はかなり初心なのだと分かって驚いた。
(人間のテオより身持ちの固い悪魔って。普通は逆じゃないかなあ?)



