なるべくエルの事を思い出さないようにしないと、察しのいい子供達に勘ぐられたら堪らない。子供の洞察力をナメたらダメなのだ。
私は雑念を追い払うように刺繍の続きをする。今はハンカチに花と葉っぱをガーランド状に見立てた図案を刺繍している。花モチーフは人気があるので、今までも沢山刺繍してきたけれど、微妙に色を変えたり配置を変えているから、同じものは一つと無いのだ。
それから何枚かの刺繍を終わらせた私は、子供達がお昼寝から目覚める頃合いを見計らっておやつの準備をする。孤児院の裏庭に実っているクラベットベリーで作ったジャムを、薄く切ったパンに塗った簡単なものだけど、子供達は喜んで食べてくれる。
(ジャムをたっぷり塗ってあげたいけれど……砂糖は高いからなぁ……)
そんな事を考えていると、玄関の方からドアベルの音が聞こえてきたのに気付く。一瞬エルが来たのかな? と思ったけれど、太陽が出ている時間に玄関から来るわけないよね、と思い直す。
(誰が来たのかな?)
「はいはーい! お待ち下さーい!」
玄関の扉を開けると、そこには見知った顔の若い男の人が立っていた。
「テオ……」



