「だって突然部屋に現れたし、黒尽くめだし……! それにそんな綺麗な顔をしている人間がいる訳ないじゃない! 貴方悪魔でしょ!」


(とぼけたって無駄なんだから! 悪魔は嘘つきだって聞いた事があるし! 私は騙されないぞ!)


 悪魔は私の言葉にキョトンとすると、嬉しげにふわりと微笑んだ。


「ふふっ、そう正面切って言われると恥ずかしいですね。お褒めいただき恐縮なのですが、今は諸事情により仮の姿を取らせていただいています」


(褒めたつもりなんて全くないけど喜んでる! それに仮の姿って……この人間の姿がって事だよね……? やっぱりこの人悪魔なんだ!)


「悪魔がどうしてここにいるの……!? 悪魔が欲しがるような物なんてここには無いから! 早く帰って!」


 司祭様だったらこの悪魔を追い祓えるんだろうけれど、見様見真似の巫女見習いの私じゃとても悪魔なんて祓えない。

 ここは少し神殿から離れているとは言え、悪しき者が近付かないように結界が張ってあるはずなのだ。そんな悪魔にとって負担が大きい場所で、どこから見ても人間にしか見えないぐらい上手く擬態しているなんて、これはかなり高位の悪魔かもしれない。