突然聞こえた声に驚いて咄嗟に振り向くと、私しかいなかった部屋の中にいつの間にか赤い瞳と黒い髪をした、黒い服に身を包んだ男の人が立っていた。


(ご、強盗……!? って、か、髪の色が黒い……!?)


 この世界で髪の色が黒い人間は非常に珍しく、現在知られているのは帝国の基礎を築いたと言われている始祖と現在の皇太子だけだ。

 でも部屋に現れたこの人物が帝国の皇太子だとは思えない。こんな寂れた神殿に超大国の皇太子が来るわけないし。

 それにアルムストレイム教では黒い色は「忌むべき色」として、嫌忌されている。


 ──ならば、この人物はアルムストレイム教に於いて、神に背く忌むべき存在であり、人々の信仰を邪魔する悪しき者──!


「──悪魔!?」


 私が悪魔だと思ったのは黒髪や黒尽くめの服装だけじゃなく、その人物が恐ろしく綺麗な顔をしていたからだ。

 悪魔は言葉巧みに人を誘惑するらしいけれど、きっと見た目が綺麗だから惑わされるのだ。じゃなきゃ悪と知っていて魅了されるわけがない。

 だから忌むべき黒髪で綺麗な顔となったら悪魔しかいないのだ。


「……え……悪魔……?」