──サラが神殿本部に連れてこられる前に時間は遡る。


 王都にあるアルムストレイム教の神殿本部で、バーバリ司教の付き人として潜入していたヴィクトルは、司教達が滞在する場所である司教館で日々情報収集に勤しんでいた。


 今日も日課である書類を処理していると、先程まで神殿の会議室で話し合いを行っていたバーバリ司教が不機嫌な顔で司教館の自室に戻ってきた。


「全くもってけしからん! 寄ってたかってワシに責任を押し付けるとは!」


 怒りが限界に達したバーバリ司教は、部屋に戻るなり首にかけていたストラを床に投げつける。


「王太子のせいで忙殺されていたのを知っておるくせに……! ワシに巫女見習いの話など聞いている時間など無いわ!!」


 バーバリ司教はこうして感情を爆発させ情報を漏らしてくれるので、ヴィクトルにとってとても扱いやすい存在だ。


 だから彼が荒れている理由も簡単に予想がついている。きっと王太子の視察日に会った巫女見習い──サラを放置した事を司教達から責められたのだろう。


「バーバリ司教様、どうか落ち着いて下さい。他の司教様達はバーバリ司教様が羨ましくて仕方がないのです」