しかし頭を垂れて礼をとっている少女は、顔は分からないけれど隠密のような訓練された雰囲気でもない、普通の少女のように見える。

 たまたま迷い込んだだけなのかもしれないけれど、詳細は後でヴィクトルが報告してくれるだろうから、一旦少女のことは置いておくことにする。


「そうか……。私が突然視察をしたいと申し出たことで、司教が忙殺されているのだな」


「……!! い、いえ!! 決してそのようなことはありません!! その娘の話は後ほどゆっくり聞きますので、殿下はどうぞこちらへ……!」


 慌てたバーバリ司教に促され神殿内へと連れて行かれる時、気付かれないようにチラリと後ろを見てみると、ヴィクトルが巫女見習いの少女を何処かへ連れて行く姿が目に入る。

 些細なことでもいいので少女から何か情報を得られればと、その時の僕は軽い気持ちでいたのだが、後にその少女が重要な存在になるとは、その時の僕は全く予想していなかった。




 * * * * * *




 神殿の視察を終えた日の夜、ヴィクトル達と秘密裏に集まり情報の交換を行っていると、昼間に会った巫女見習いの少女の話題が出た。