「……私、どうしてもエルにお礼がしたいんだけれど、どうすればエルは喜んでくれる? 私に出来る事があれば何でも言って欲しい」
お爺ちゃんから「借りは倍にして返すものだ」って教えられているし、このまま貰いっぱなしなんて私の矜持に反してしまう。
「えっ……」
私の申し出にエルは一瞬驚いた後、何故か顔を赤くして口元を手で隠すと、さっと私から視線を外す。
それからしばらくエルは黙っていたけれど、欲しいものを考えているのかな、と思った私はじっとエルの返事を待つ。
「……では、僕の側にいてください」
「へ?」
予想外のエルの返答に間の抜けた声が出た。
ぽかんとした私の表情を見て苦笑いを浮かべたエルが、椅子から立ち上がって窓を開けると、夜の冷たい風が頬を撫で、季節の変化を教えてくれる。
「これから王宮に来る貴女はきっと、僕について色んな噂を聞く事になると思います。そうなると貴女は僕に対して不信感を持つでしょう。だけど僕は……」
エルが言葉を詰まらせる。そんなエルの表情はとても辛そうで、そのまま窓の外の闇に溶けてしまいそうだった。きっとその噂とやらは良くないものなのだろう。