どうやら私はこのやんごとなき人を、ずっと悪魔だと勘違いしていたらしい。本来なら速攻処刑コースだと思うけれど、私が有益な情報を持っているからギリギリ生かされているのかもしれない。


 再びエルが踵を返し歩き出す。私の手はずっとエルに握られているから、今の私はエルに引っ張られている状態だ。


 私の前を歩いているエルの後ろ姿をぼんやりと見上げる。

 いつも見ていた闇に溶けたような艷やかな黒髪が、今は月の光を受けて金糸のようにきらきらと輝いている。その様は今までと正反対で、エルをとても神々しく感じてしまう。


「……あの、エル……」


 思わずエルに声を掛けてしまったけれど、よく考えたら私は発言の許可を貰っていないので、きっと司祭のように怒られてしまう──そう思ったけれど、エルは「はい、何でしょう?」と言って立ち止まり、私に向かって優しく微笑んでくれた。


 そんな変わらないエルの様子に、私の胸が熱くなる。

 今なら聞いても大丈夫だと確信した私は、エルに確認の為の質問をする。


「……エルは、王族なの……?」


「──はい」


「……っ、……エルの本当の名前を、教えて……?」


「……僕の名前は、エデルトルート。エデルトルート・ダールクヴィスト・サロライネンです」


 初めて聞いたエルの名前は、辺境に住む私でも知っている王族の名前で──王族は王族でも次期国王となる王太子の名前だった。