その3
夏美



「…今時点の墨東では一応、紅組とは友好関係ってことになってるんで…。その延長からすれば、紅組の理念を実践しているキミ達南玉連合ともってことになろうが、組織内部ではお互い大所帯で、間接的な細かいトラブルは日常的に抱えてるしね。やはり現状では、オポジションって捉えざるを得ない」

これは正確な分析だと思うわ

「…であれば、その両組織の主導的立場に就く男女二人が交際してとなると、互いに内部事情を漏らす密通行為を疑われても無理ないよな」

「はい、私もそう思います」

「だから、少なくともオレ達二人が今のポジションから降りるまではさ、表立って会うことは自制すべきだと思うんだ。当然、会っても、お互いの組織のことは話さない。関与しない…」

さすが人格者って言われてるだけあるわ、この人

...


「ふう…、杓子定規ながら、これを二人が遵守できる自信がないと、自分の属する組織に迷惑をかけるし、裏切り行為にあたる場合だってある。オレはそう考えてるよ」

「…」

私は小さく頷きながら、南部さんの考えをじっと聞いていた

「…だけどさ…、それならなおさら、現状のお互いの立場をよく知り得ていないと、そもそも心など通わせられないと思ってね。それで、今日はあえて目いっぱい、リアルな互いの組織に関連することを忌憚なくしゃべってんだ」

やっぱり!

この人は、まずお互いの立場を分かりあうところからスタートさせようと、それでだったのよ!

私は改めて感激したわ…


...


「ええ…。南部さんのその思い、私は100%理解できるし、全く同感ですよ。今日こんな話までできて、私、あなたのことがよく分かったんですもの。その上で、これからの二人、南部さんの提案通り丸ごとで了解です」

ここで彼はクスッツと笑った

とてもいい笑顔だったわ

私は続けた

「…今言われたこと、全部、その通りですよ。私も今のポジション全うするまで、この責任ある立場を優先します」

「そうか…。それじゃあ、以後二人の基本ルールはそう言うことでな。とにかく今日、オレ達は同じような立場で日々奮闘してるんだなあって実感できたからさあ…。今後会った時には何も聞かなくとも、相手を思いやることが出来る。当面は互いに愚痴とかこぼしたくなっても、それがわかっていれば我慢できるだろうしね。これは大げさだが、当面の二人の誓いにしたい。どうだい、相川さん?」

なんて素晴らしい感覚なの…

出会えてよかった、この人に…

...


「はい。私、誓います!」

私は即答した

「よし、なら、オレも誓う!」

私たちふたりは誓いを交わしたわ!