セドリックはお辞儀をしてジェラルドのもとを去っていくと、ジェラルドはシェリーと話すブライアンを見つめる。
 何かこの男には秘密がある、と直感が働いたのかジェラルドの彼への警戒心が強まる。

「シェリー!」
「はいっ! ジェラルド様」
「妃教育の時間だろう。そろそろ戻らないとクラリス先生に叱られるぞ!」

 その言葉を聞いてシェリーは慌てて兄に別れの挨拶をすると、そのままジェラルドにも一礼してその場を去って行く。
 部屋にジェラルドとブライアンだけになると、長い沈黙を破ってブライアンが声をかけた。

「陛下、私の処遇はどうなるのでしょうか?」
「君はひとまず新しい当主としてグローヴ侯爵の名を継いで構わない」
「かしこまりました。それでは、私もこれで失礼します」

 挨拶をしてジェラルドの横を通り過ぎる瞬間に、ブライアンはにやりと笑いながら言った。


「あなたにシェリーは守れない」

「──っ!」

 ジェラルドはブライアンのほうを振り返ると、そこには目にかかるほどの長く黒い前髪の奥に闇の深い瞳があった……。