シェリーの去った執務室に一人ジェラルドは立ち尽くして、そしてシェリーの腕を掴んでいた右手をゆっくりと下ろした。
 息を飲み、そして彼の視線はしばらく床に注がれた後、写真の女性に移された。
 ゆっくりと自分の席に戻ると、彼はそっと写真立てを手に取って眺める。
 ジェラルドは彼女との日々を思い出した。

 彼女──ローラとの出会いは今からちょうど10年前だった。
 ローラは聖女の名にふさわしい美しい女神のような見た目をしており、黒髪を靡かせて修道院を歩く様は誰もが振り返りそして惚れた。
 そんな中ジェラルドとローラは修道院で出会い、何度か会ううちに二人は惹かれ合っていた。

『今日も寄ってくださったのですね。ありがとうございます』
『ああ、仕事で近くにいたからな』

 嘘だった。
 ジェラルドは公務を抜け出して彼女にわざわざ会いに毎日来ていた。

 やがて婚約者となった後は修道院では歓迎されたが、王宮内や貴族間では王子が修道院の子と婚約するとは、ということで多くの人が反対した。
 身を引こうとまで考えたローラだったが、彼はそれでも身分は関係ないと彼女を溺愛して愛した。
 そんな彼の愛にローラは応え、聖女の癒しの力を使ってなんとかジェラルドにかけられた魔女の呪いを解こうとしたが、解けなかった。
 彼女は呪いを解けなくても進行を遅らせることはできると、必死に癒しの力を使った。

 そして、とうとう力尽いてしまった。