「「どうした柴崎」」
「「「え、なに」」」


院長の突然の行動に、参加している全員の視線を集めてしまった


「進ね、みよちゃんを口説いてるの」


「「「えーー」」」


どうしてここでバラすかな


「でも、みよちゃんは春から大学生の未成年でしょ
だから此処にいる全員が証人になってほしいの」


そういうことね・・・


「言ってる意味が分からないが」


椎名さんが興味深々で食いついた


「お試し期間ってことで一ヶ月だけ付き合うの
だって、なんでも予行は必要でしょ」


愛実さんの意図が読めず困惑している周りに
囃し立てられたこともあって


「キッチリ一ヶ月と約束する」


院長は可笑しな決めごとを受け入れた


「みよちゃん。これから先、沢山の人と付き合っていくと思うから
“とりあえず”って決めて良いのよ
色々な人と出会うと、その中で居心地の良い人が絞られてくるわ」


なんだか言いくるめられた気もするけれど


場の雰囲気も含めた大人の柔軟な考え方に
それも良いかと思えた


「改めて、お願いします」


ずっと手を握って跪いたままの院長はもう一度頭を下げた


「・・・・・・分かりました」


「「「「「おぉーーーー」」」」」


彼方此方で乾杯が始まり
院長は漸く笑顔になった


「ちょっとごめんね」


握ったままの院長の手を解いた愛実さんは


「みよちゃん、ちょっといいかな」


そのまま手を引くと個室から出た


カツカツとヒール音が響く通路を進んで
“雅”とプレートの付いた扉を開けて入った


そこは六人程度がはいる小さな個室で


「座って」


「はい」


隣に腰掛けた愛実さんは


「ごめんね」


さっきまでの勢いを消すと頭を下げた


「ん?」


「強引に進との付き合いを決めちゃって」


「あ・・・まぁ、大丈夫ですよ」


「証人を作ったのは綺麗に別れる為なんだけどね」


「フフ、別れるの前提ですか」


「だって、彬の良さを再確認するかもしれないでしょう?」


「・・・」


愛実さんの思惑はここにあった


「でも、まぁ、彬と進じゃなくても良いの
みよちゃん若いんだもの、これから沢山恋愛して
運命の人と出会うんだもの
楽しまなきゃ損だわ」


やっぱり愛実さんは愛実さん


「ありがとうございます」


「お礼を言われることしたっけ」


「なんとなく?」


「「フフフ」」


出会った強引な人達のお陰で
新たな一歩を踏み出す日になった