「みんなグラス持ったか
今年も宜しくお願いします」


「「「「カンパーイ」」」」


四十数名での新年会は割烹店を貸し切っての豪華なもので
鮟鱇鍋を囲んで盛り上がった



・・・二時間後



「お開きの前に注目」

部長の声掛けに父が立ち上がり、視線を集めたところで締めの挨拶が始まった


「駅前開発ビルがいよいよオープンだ
一般公募で決まった名前は「レガーメ」抽選会も大詰めだから
あと少し業務外のことも宜しく頼む
それと、完成に合わせて会社を移転することは知ってると思うが
場所は一階の奥で、今より規模が大きくなるので、少し従業員を補充しようと思う
これから益々忙しくなるとは思うが、これまで同様よろしく」


想定していた発表に拍手も起こりお開きになった

複合型商業ビルは父の会社が持つ中央駅前の土地に
官民合同の箱物建築という街の肝入り工事で
誘拐もあったようにその利権から僅かな出資を巡って思惑が交錯するもの

父の会社は一躍有名になり
その利益は計り知れないという

・・・ふと、彬はそれを知って近づいたのかと嫌な想いが顔を跨げる

一目惚れだったと言った四年前には
もう事業は始まっていた

ハマりそうな負のループに頭を振った



店を出てタクシーを待っていると
愛実さんから電話が鳴った

(みよちゃん。今どこ?)

「えっと、街に居ますけど
どうかしましたか?」

(今ね、ちょっと飲んでんだけど
出てこられない?)

「・・・」

疑ってはいけないのに“もしかして”の疑念が先に立って直ぐに返事が出ない私を

(友達しかいないから大丈夫)

愛実さんはちゃんと安心させてくれた

だから、私も変わらなければ・・・

「少しなら」

(じゃあ、そこで待ってて
迎えに行くから)

強引なところは家系だね

タクシー待ちをする従業員さん達を見送っていると愛実さんが歩いてきた


「みよちゃん。ごめんね」


「いいえ」


並んで歩くこと五分
今度もお洒落な店の個室に入ると


「「「みよちゃ~ん」」」


「こんばんは」


前回の合コンメンバーが迎えてくれた


「みよちゃん。待ってたよ」


本日二度目の院長の登場


「みよちゃん適当に座って」

お姉さんに促されてぐるりと見回すと心療内科医の椎名さんの隣が空いていた


「みよちゃんはここ」
それを阻んだのは院長だった


「アルバイトお疲れ様でした」


「院長こそお仕事お疲れ様でした」


逃げられないなら開き直るしかない


「お腹は空いてない?」


「今夜は会社の新年会だったの」


「じゃあ大丈夫だね」


「うん」


やっぱり院長の周りは緩やかな時間が流れていて

警戒はしてみても、その心地良さにそれを解くのは直ぐだった


今回は席替えもなくて
院長とお喋りを続けていると

ワイングラスを持った愛実さんが左隣に座った


「進、最近はどうなの」


「いつもと変わらないよ」


「じゃあ女の子も食い散らかしてるってことかしら」


「彬じゃないんだから、そんなことしないよ」


「ここで彬を引き合いに出すとか、デリカシーないわ」


私を挟んで続いていたお喋りに固まると
院長が顔を覗き込んでくるから頷いてしまった


「じゃあ」


「彬と別れても、進と付き合うとは限らないわよ?」


「それは・・・みよちゃんと俺の話だよな」


「彬と進のどちらかじゃなくて
世の中には五万と男は居るって話よ」


「愛実さん」


「みよちゃんと付き合うには
お試し期間がキッチリ決まってるの
それを守れない男は無理よ」


「一ヶ月ってこと?」


「そう」


愛実さんの意図が読めなくて
考え込む間に


「お試しでも良いから
よろしくお願いします」


院長は私の手を取ると足元に跪いた


「・・・っ」


二本目のおじさんフラグが立ちました