一月十五日


「今夜は新年会だから」そう言われて
父の会社のアルバイトを再開した


あれから彬には会っていない









「おはようございま〜す」


フロアに挨拶をして社長室に入った


「今日は何をすれば良い?」


「そうだな~、これこれ
回報の準備をお願いするよ」


「回報?」


「封入物は用意出来てるからな
折り畳んで封筒に入れて宛名シールを貼って郵便局に出す」


「そんな肩が凝るような作業を
みよ一人で出来ないよ」


「じゃあ。土居とすれば良い」


「え~」


別の仕事になるかと考えたのに逃げられず
会議室で山盛りの印刷物と格闘することになった

地道な作業も土居さんは嫌な顔もせず
コツコツと進める

三分の一が済んだところでお昼休みになった


「みよさん外に出る?」


「うん」


久しぶりに二人で歩道を歩く


「彼氏さんは退院したの?」


「・・・うん」


「今日はランチの約束してないの?」


「うん。もうしないの」


「ん?」


「別れたから」


「・・・え」


立ち止まってしまった土居さんを待たずに歩き続ける


「ちょ、待って、みよさん」


「置いてくよ〜」


「別れたって本当?」


「事態は刻々と変化するものよ
この話を広げるつもりはないんだけど」


「あ、ごめんなさい」


「フフ、許してあげよう」


「じゃあ今日のランチはここ」


ふと見ればいつかの洋食屋さんのビルに着いていた


「久しぶりっ」


店内に入ると一番乗りだった


「今日は」


パラパラとメニューを捲って
蟹クリームコロッケのランチを選んだ


「俺はいつものビーフシチュー」


注文をしたところで背後の扉が開いて


「みよちゃん」


名前を呼ばれて振り返ると院長が立っていた


「えっと、隣良いかな」


断る理由もなくて頷く

土居さんの反対隣に座った院長は


「ビーフシチューのランチ」


迷わず注文すると私を通り越して土居さんに挨拶をした


「お父さんの会社の彼?」


「うん」
「土居です。初めまして」


「初めまして、柴崎総合病院の柴崎です」


「・・・っ」


土居さんは一瞬鳩豆顔で固まったあと
相関図が繋がったのか、一人でうんうんと頷いた


「今日は一人?」


「今日も一人だよ。みよちゃんが帰ってから寂しい一人ご飯に戻ったんだ」


「院長なら誘ったら誰でも着いて来そうだけど」


「誰でも良い訳じゃないよ」


「フフ」


結局のところ、連れだと思った店主の気配りで
同時に料理が仕上がった


食べ終わるまでテンポ良く話しかけてくる院長に応えていた所為で
一緒に来た土居さんと話す隙さえなかった


「みよちゃん、またね」


「うん、また」


ビルから出たところで院長と分かれて
店に戻りながら今度は土居さんから質問攻めに遭った


「みよさん。院長と何かあった?」


「ん・・・」


ザックリと説明すると


「僕を見る目が痛かった」


小心者の土居さんには怖かったらしい


「みよが入院した時は、当直の先生が担当でね
院長からは携帯番号を聞いただけで気にも留めてなかったの」


「あれは本気でしょ」


「やっぱそう見える?」


「彼氏と別れたことは言ってないの?」


「いや、知ってる」


決定的な場面に出会したからね


「ハハハ、だろうね」


「笑い事じゃないんです〜」


「こんな日は美味しいもの食べて元気出さなきゃ」


「みよは元気だよ、食欲もあるし
でも、夜は美味しい店じゃないとやめる」


「・・・確か鍋って聞いたよ」


「鍋かぁ。作業済んだら一度帰ろう」


「・・・え、なんで?」


「女子は色々あるんです〜」


「ハハ、そりゃ大変だ」


お気楽に笑っていた私は
夜にも院長に会うことになるとは知らないでいた