地下駐車場まで降りると
敢えて助手席に乗った


「家までお願いします」


「このまま帰っても良いのか?」


「うん。もう大丈夫
松本さんもありがとうね」

精一杯笑って見せた私に


「ハァ」

大袈裟なため息を吐いた狛犬は


「今日はあの人にもう会わないと伝えに来たんだ
確かにお金が絡む相手だが
間違いなく今日は切る為に此処に来たんだ」


「会わないと伝えるだけなのに
態々ホテルを選ぶのね」


「・・・」


「私さ、ここまでバカにされたの初めてなんだけど」


「・・・それは違う」


「何が“四年前に一目惚れした”よ!」


「・・・っ」


「“許して欲しい”“誤解だ”
“好きだ”“愛してる”
全部、全部ウソにしか聞こえない」


彬に直接打つけたかった思いを吐き出した


「・・・みよさん」


悔しくて・・・悔しくて

堪えていたのに


「全部全部、若の本音で嘘じゃない」


もう一ミリも信用できない戯言を聞いた途端


堰を切ったように涙が落ちた


「じゃあ説明してよ
私だけだったって証明してよっ
本当に好きなら此処に追い掛けてきてもいいのに来ないじゃない
結局、楽な関係が忘れられないってことでしょ」


分からない感情に涙がどんどん溢れてきて


眉を下げた狛犬の顔が


ぼんやりと


消えた


「みよさんっ!」










重い目蓋を持ち上げて
薄っすら見えたのは

見覚えのある白い壁だった



「良かった気がついた」



視界に飛び込んできたのは彬で
咄嗟に布団を頭まで引き上げた


・・・また倒れてしまったんだ


ポンコツな身体が恨めしい


「みよ」


「帰って、もう二度と私の前に現れないで」


「・・・みよ」


コンコン

ノックが聞こえて扉が開いた音がした


「気がついたのか」


院長の声が聞こえる


「どうした。みよちゃん」


「お前は黙ってろよ!」


近づく院長を遮るように大きな声を出した彬


「何だ彬。お前喧嘩売ってんのか?」


枕元で喧嘩を始める二人に怒りが込み上げる


「二人とも出てってよ」


「みよ。ちゃんと話しをしよう」


「必要ない」


聞きたいけれど、別れたのだから必要ないとの思いがそれを止めた


「みよちゃんが倒れたのは彬の所為なのか?
それなら尚更、彬は帰れよ」


院長が割って入ると


「だからお前はちょっと黙ってろよ」


途端に噛みつく様子に布団を被ったまま背を向けた


「聞いて欲しい」


背を向けたまま聞かされたのは
子供ができたけど流産したという元カノの話しだった


「八年前に一週間程付き合った女で
それ以降、要求されるまま支払い続けてきたんだ」


「お金を支払う代わりに寝たのね」


「金の無心に来る女に手を出すはずがない」


「今日はどう見ても事後だった」


「あれは俺じゃない」


苛立ちから上半身を起こすと
グラリと揺れる身体を支えてくれたのは院長だった


「彼女と付き合ってるのに私が割り込んだのなら
下手に言い訳しないで別れたら良かったのよ」


「みよのことだけを想っているし
みよ以外、他に女はいない」


浴びるほど聞いた私への想いも
もう一ミリも心に届かない言い訳にしか聞こえない

結局、何が真実なのか突き止めるだけの気持ちも消えた


「もう、一人にして欲しい」


重い空気から解放されたいと
ベッドに潜り込んで


全てを拒絶した