終わりを告げる部屋番号は
【1018】
ドアスコープを避けるために
通り過ぎた隣の部屋との間の壁に貼りついた
こんな時でも知恵が働くことにも溜め息を吐く
狛犬がベルを鳴らすと微かに声が聞こえた
それに狛犬が「松本です」と反応するとカチャっとドアが開いた
瞬間的に狛犬の持つドアを更に開いた
「・・・っ、みよっ」
一瞬驚いた顔をした彬も
次の瞬間に「松本。お前っ」低い声で唸った
素早く脇をすり抜け部屋の中へと入る
「みよ、待つんだ」
彬の呼び掛けも無視して入った部屋の中に居たのは
窓際の椅子に座るバスローブを着た女だった
シャワーを浴びたようだけれど
化粧は濃いままの違和感しかない女は
「あら、この可愛い子は誰?」
突然入って来た私に動じることなく
クスクスと笑った
ショートボブの黒髪に真っ赤な口紅
真っ赤なマニキュア
一番深い目尻のシワは私より遥かに年上だと分かるもので
直也が言った通りの“おばさん”だ
「みよ違うんだ。説明させてくれ」
何が違うというのだろうか
「なに、修羅場にするの?」
悪怯れる風もない女は
「私は他に女が居ても居なくても関係ないけど
逢瀬に乗り込むような女はやめた方が良いわよ、彬」
そう言って下品に笑った
「馬鹿みたい」
ポツリと溢したのは自分に向けたもので
スーツを着ている彬に対して
違和感しかない乱れたシーツ
小切手が必要な相手だと狛犬は言ったけれど
払ってまで抱きたい相手なんだと思うだけで
なんだか、気持ちの整理がついた
お試し期間なんて
子供騙しに乗せられて
遊ばれていたのは私だ
「お金を払ってまで会いたい人なのね」
軽蔑した視線を向ける私に
驚いた顔をした彬は
「会いたい訳じゃない」
表情を歪ませた
「実際、小切手が必要なんでしょ」
狛犬から渡された黒いポーチには
小切手が入っている
逃げられない事実に
セットした髪をクシャリと掴んだ彬は
「あぁ」
全てを認めた
刹那、身体中の血液が熱を帯び
足元から沸き上がってくる衝動に
パチーンッ
気がつくと彬の頬を叩いていた
「・・・っ、なになにアンタ
突然暴力とか怖いんですけどっ
彬も、なに叩かれてんの、避けなさいよっ」
「お前は黙ってろ」
「なによっ」
これ以上二人の茶番に付き合えば
自分が惨めになるだけだ
「これで、本当にサヨナラね」
「ちょ、待て、みよっ」
掴まれた腕を咄嗟に振り解くと
入り口へ足を向けた
通路で待っていた狛犬は
「送ります」
静かに頭を下げた



