おじさんフラグが二本立ちました




(みよ、お前。彼氏と別れたなら
なんで俺に連絡してこないんだよ)


久々の直也からの電話は
昨日別れたことを知っている口振りだった


「・・・なんで」

(なんでって。彼氏と別れたら俺と付き合うって言っただろう)

「しつこいよ直也」

(さっきまで俺、Nホテル一階のテラスでランチしてたんだ
そしたら。青野が女連れでホテルの中に入って行ってさ
気になって見てたら、なんとエレベーターに乗った
ほら、あのホテル一階以外は客室だろ?
あいつ昼間っからやってるぜ
それも、化粧の濃いおばさんだった
みよが若すぎたんで反動だな)


聞きもしないことを、ベラベラと話した直也の声を聞きながら、怒りが込み上げる

それでも、直也を巻き込む訳にはいかない

どうにか誤魔化して電話を切ると
ソファの上で膝を抱えた


あんな奴だけど嘘なんて言わない
ということは・・・

あれほど許して欲しいと言った癖に
もう別の女と過ごしているという事実


彬との終わりが確定した


お互いに納得して別れるために
出来ること・・・

十八歳の子供の私が思いついたのは
その場に乗り込むことだった

急いで支度を済ませると
タクシーを拾いNホテルへと告げる

混雑のない平日の昼間は
あっという間に目的地へ運んでくれた

降りて建物を見上げるとクラクラしそうな高さで
一階の直也の居たカフェテリアを見ながら
正面入り口を避け、ホテルの裏手から地下駐車場に繋がるスロープを下る


こういう場所は正面から突っ込んでも部屋には入れて貰えない

それなら周りを攻め落とす
変な習性は直也と連んでいた頃のもの

シンとした地下駐車場の大きな柱の横には予測通りの車が止まっていた

運転席には狛犬が本を読んでいるのが見える
窓を叩くと私に気付いて驚いた顔をした

助手席の窓を開けてとジェスチャーするとひとつ頷いた


「助手席乗って良い?」


座席を指差すと目を彷徨わせたあとロックを解除してくれた


「松本さん・・・彬は?」


「今日は若は仕事で」


「ここで?」


「・・・此処は今・・・社長が」


平静を装ってはいるけれど
目が泳いでいる


「良いのよ、知ってるから」


「いや、あの・・・その」


「誰なの?」


俯いて視線を逸らす狛犬に質問を続ける


「クラブの女」
「キャバ嬢」
「元カノ」


三つ指を折ったところで顔を上げた狛犬の瞳が僅かに揺れた


「そっか。元カノか、いつから?」


もしかしたら元カノが本命かもしれない


「勘弁して下さい」


言えないと視線を落とす狛犬は肯定したようなもの

ハァとため息を吐いたところで
狛犬は意を決したように顔を上げた


「みよさん。今日のこれは違うんだ」


「言ってる意味が分かんないんだけど」


何とか口を割らせようとしたけれど
また俯いてしまった狛犬

回りくどいやり方を選んだ自分に
もう一度ため息を吐いたところで


狛犬の携帯電話が鳴った
チラッと見た画面には彬の名前が表示されている


「私が居るって言わないで」


視線を寄越しただけで返事をしないまま携帯電話を耳に当てた狛犬は


「はい、はい。えっ座席ですか
はい分かりました」

それだけで電話を終えた


「何て?」


「座席に小切手忘れているから
持って来るようにと」


「小切手?」


後部座席に目をやると
黒いポーチが残されていた


「みよさん察して欲しい
小切手が必要な相手で
みよさんが怒るような相手じゃない」


「それはみよが決めることよね」


観念した狛犬とエレベーターに乗り上層階へ向かう


「みよさん。やめよう」

何度も立ち止まる狛犬に
何度も首を横に振り前を向いた