ーーーーー翌朝


朝食を食べ終えたところでチャイムが鳴った


嫌な予感に二階へ駆け上がり鍵を閉めた


コンコン


「みよちゃん」


直ぐにやって来た母は


「彬君のお姉さんが来られたわ」


意外な人の名前を告げた


「・・・え」


扉を開けると母の隣に眉を下げたお姉さんが立っていた


「良いかな」


「どうぞ」


重い空気のままソファに座って貰うと
母がお茶を運んできた


「お母さん、朝からすみません」


「いえいえ、お気になさらずに」


母が出て行くと同時にお姉さんはソファから下りると頭を下げた


「みよちゃんごめんなさい」


「お姉さん、困ります
ソファに座ってください」


「まさかこんな事になるなんて思わなくて
本当軽率だったと反省してるの」


「いやいや、冷静になって考えてくださいね?
彬が寝ている間にお姉さんと食事に行っただけでしょう?」


「それはそうなんだけど」


「だから、引き金がコレだっただけで
別れの種は沢山あったってことですよ」


「でも・・・」


「こんなことで壊れる関係は
長く続く訳がないでしょ
だって、昨日から溢れてくるのは苛立ちだけで
悲しいなんて感情、一ミリも生まれてこないんです」


「・・・みよちゃん」


「ほら、お試しの一ヶ月が終わっただけ
お互いが我を通し合う関係は長くは続かないってことかな」


「それで後悔しないの?」


「それは今の感情ではなくて
後悔するとすれば後々でしょ」


「そこまで言えるなら、諦める
でも最後にもう一度だけ言わせて
みよちゃんごめんなさい」


「だから、お姉さんの所為じゃないですって」


「じゃあ、ここからは別の話」


「はい」


「みよちゃんの友達になりたいな」


「それは、私からもお願いします」


「あ〜もう、ほんとこんな可愛い子
アイツは許さないんだからっ!」


やっとソファに座り直してくれたお姉さんは
お茶を飲み干して笑ってくれた


「お姉さんに嫌な役を押し付けても良いですか?」


「もしかして指輪とネックレス?」


「・・・はい」


「預かって帰るわね
あの子も反省すれば良いわ」


「ごめんなさい」


「それから“お姉さん”はやめて欲しいわ
彬のお姉さんから友達になったでしょ
だから名前で呼んで欲しい」


「では、愛実さん、よろしくお願いします」


「来週には一度香港に戻るけど
三月には引っ越してくるから
恋愛相談も受けるし、色々遊びに行きましょうね」


「分かりました、楽しみにしておきますね」


「それから・・・」


内緒話をするみたいに声を顰めた愛実さんは


「この機会に進とお試ししてみたらどうかな」


ぶっ飛んだ提案をしてきた


「私の勝手な考えなんだけどね
進と付き合えば、もしかしたら
彬の良さに気付くかもしれないでしょ」


「・・・え」


ショック療法だろうか
今の私には愛実さんの意図が読めない


それでも立ち止まっているのは性に合わない


「約束はできませんが・・・
前向きに考えますね」


「良かった」


この時の提案が後々どう転ぶのか
予測もつかない未来は

実は此処から始まっていた