どこをどう歩いたのか
気が付くと家の玄関だった


「え、みよちゃん?」


「ただいま」


「付き添いはどうなったの?」


「いいの別れたから」


「・・・え、何、悪い冗談?」


母は鳩豆顔で固まった


「だから別れたの
それで帰ってきた。分かった?」


「だって、お母さん今日病室で
彬さんと、話したところなのに」


「事態は急変するの
疲れたから寝る」


荷物を玄関に置いたまま
部屋に入り鍵をかけた

ベッドに潜り込むと苛々が募る


「ムカつく」


彬から貰った指輪とネックレスをガラステーブルに置くと冷たい音がした

これまで何度もあった衝突
その度に短気な私は“別れ”の一択しかなかった
考えてみれば終わりのフラグは早いうちに立っていたのかもしれない

もちろん今回のことにしても謝る気持ちが無い以上
それが確定事項になっただけ

お姉さんと食事に出たのが
まさかこんな事態を招くとは

院長とのことを相談なんてしている場合じゃなかったのだ

結婚なんて先の話しだとウザがっていたのが夢みたい


「とりあえず寝よう」


キャパオーバーに布団を被った







目を覚ますと部屋の中は真っ暗だった
携帯電話のデジタル時計は二十時

着信とメッセージの通知件数は三桁を超えている

もちろん並ぶのは彬の名前で

無性に腹が立ってひとつも確認することなく全削除を選んだ

今更なんの用・・・ウザイ

リビングルームに下りると父がいた


「起きたのか」


「喉渇いた」


「彬君が来てたぞ」


「もう来るなって言ってくれたんでしょ」


「本当に別れたのか」


「そうだよ」


「また彬君倒れたら、面倒だろ」


「知らない」


「今日は帰ってもらったけど
また来るって言ってたぞ
みよがワガママ言ったんじゃないのか」


「・・・は?何?私の所為なの?
意味分かんないんだけど」


「いや、彬君は全部自分の所為ですって言ってたけど」


「そーよ。全部彬が悪いの」


「意地を張ってんじゃないのか」


「もう別れたのよ
意地を張ってる訳じゃない
喧嘩を売ってきたのはあっち
二度と彬の話はしないで」


寝起きにこれほどテンション上げたのは初めてだ

水のペットボトルを持って部屋に戻ると携帯電話が鳴っていた


【お姉さん】


またかとちょっと笑えて
苛つく気分がそのまま乗っかり電源を落とした


許さない私が悪いのだろうかと
考えたところで答えなんて出るはずもなくて

苛立ちがピークに達したところで電源を入れた


【彬】


名前をタップするとワンコールもなく繋がった


「みよ」


大好きだったバリトンボイスも今は苛立ちしか生まれない


「電話もメッセージも迷惑なの
読まずに削除したから、それと
お姉さんから何度も電話があるのも迷惑だから」


「俺が悪かったんだ、許して欲しい」


「許すもなにも別れたんだから
関係ないでしょう」


「ごめん。俺はどうかしてたんだ」


悲しげな声を聞いても今回ばかりは許す気持ちになれなかった


「言いたいことはそれだけ?
じゃあ、さよなら」


驚くほどの低い声を出すと終話ボタンを押した


「・・・ハァ」


どれだけ話そうとも、もう彼を傷つける言葉しか出せない気がした