病室に着くと扉を開ける前に
深呼吸して気持ちを切り替える


「午後から退院だって」


「そうか」
「「良かった」」


喜んでいる顔を見ていると
院長と食事くらい良いかと思えた


「頭痛、なんだって?」


「えっとね」
説明された通りに伝える


「やっぱりストレスだよな
でももう大丈夫。帰ったら治るよ」


俺の所為だとは言わない彬に
静かにため息を吐き出した





予定通りに母はお昼にやって来た


「彬さん良かったわね」


「ありがとうございます」


「みよちゃんはどうするの?」


「まだ付き添って欲しいんですけど構わないですか?」


私の返事よりも先に答える彬にカチンとくる


「みよちゃんの体調もあるから、余り長いのも困るわ」


「分かりました」


「お母さん、このキャリーバッグね」


「任せて」


不似合いなマゼンタのキャリーバッグを引きながら帰って行った母を見送ったあと
病室に戻ると病衣から着替えた彼がお帰りと迎えてくれた

見慣れていたはず彼の姿なのに
妙に懐かしい気もした


「さぁ帰ろう」


手を繋いで病室を出る
ナースステーションで挨拶をして
二階の入院会計で支払いを済ませると院長が待っていた


「もう来るなよ」


「あぁもう来ない」


「先生ありがとうございました」


食事も含めて丁寧にお礼を言うと、彬と向き合う時とは違う顔で


「いつでもどうぞ」と頭を撫でられた






彬の家に着くとリビングルームでお姉さんが待っていた


「みよちゃんお帰りなさい
体調はどう?ばあやから聞いて心配してたの」


「とりあえず、大丈夫です」


「ばあや。みよちゃんは預かりものなんだから無理させちゃだめよ」


「畏まりました」


“預かりもの”って表現が少し気にはなったものの・・・お腹の虫が優先


とりあえず彬を寝室に寝かせてリビングルームに戻るとばあやに声をかけた


「ばあや、お昼ご飯って作れる?」


「みよちゃんランチに行きましょう」


返事をしたのはお姉さんだった


「私、コッテリは無理ですよ?」


「そうよね。じゃあ軽い和食」


和食に軽いも重いもあるのかは分からないけれど
お姉さんと一緒に出掛けることになった