おじさんフラグが二本立ちました


話が終わると運転席に乗り込んだ院長は


「出発しま〜す」


ニッコリ笑ってハンドルを握った


てっきり病室に連れ戻されると思っていたから
意外な展開に力が抜ける


十分程で大きなマンションに着いた


「ここ、俺の家なんだ
少し話をしようか」


「・・・え」


「大丈夫。彬にも言ったし
このまま帰せないよ」


促されるまま部屋まで付いてきたけれど、説得されると思うだけで気が重い

入口に突っ立ったままの私の肩を抱いた院長は


「サァどうぞ」


ソファの真ん中に私を座らせた


「ちょっと待ってて
美味しいお茶を入れるからね」


ウインクひとつでカウンターキッチンへと入って行った


待つ間、カーテンが開いたままの窓ガラスに映る自分の姿をボンヤリと見つめる

背後にはお茶を入れる院長

彬の家とは違って二人きりの空間に
気配を感じていたくてガラス越しの院長を目で追っていた


「お待たせ」

ガラスのポットに入ったお茶がテーブルに置かれた


「綺麗」


「だろ?ハーブティは飲んだことある?」


「ううん」


「これは不安な気持ちを落ち着かせる癒し系のラベンダー」


ガラスのカップを両手で持つと、広がる香りときれいな色に心が緩む


何も聞かず、ただ、隣に居てくれる院長は
私の気持ちが解けるのを待っていてくれているようだった


「ご馳走様でした」


「他にも色々あるけど」


「いいの・・・ありがとう」


ラベンダーのお陰なのか
院長の配慮のお陰か

ささくれ立った気持ちが緩むと
涙が溢れ落ちた


「みよちゃんごめん
泣かせるつもりじゃないんだ」


両手で顔を覆って泣く私を
抱きしめて頭を撫でてくれる院長


今回のこともそうだけど
私の気持ちの中には明確な壁ができている

その燻る思いをそのまま院長に打つけた


「・・・繋いで躾直し、か」


「そう」


「独占欲って言葉で片付けられないけど
可愛い彼女を誰にも渡したくないって気持ちなら理解できそう」


「・・・理解、ね」


「モテたことしかないから、どう追いかければ良いか分からないんだよ、きっと
逆に、これは浮気になる?
彼女が別の男の部屋で泣きながら腕に抱かれてる」


お試しでも浮気はダメと言ったのは私


「独占欲はそのままみよちゃんへの気持ちに繋がるよね」


本当にそうなのだろうか

顔を覆っていた両手を外すと


「ほら、泣き止んで」


サッと涙を拭ってくれた


穏やかな口調はお医者さんだからなのか
院長のそばは居心地が良い


「優しいのね」


「なのにモテないんだ」


「嘘ばっかり」


「付き合ってみてよ」


「冗談ばっかり」


「・・・冗談か」


「おじさんキラーになった気分」


「ハハハ、おじさんだよな」


「干支一回りなので」


「それを言われちゃ認めざるを得ないな
さぁ、もう一杯ご馳走様しようか」


「ジャスミン茶はある?」


「あるよ。じゃあそれにしよう」


「うん」


「ほら一緒に」


自然に手を引かれてキッチンに立った

ミネラルウォーターを電気ケトルに入れスイッチを押す


「一分で沸くからね」


キャビネットから新しいカップを取り出して木のスプーンで茶葉を入れた

お湯を注ぐとお茶の葉が踊り始め
トレーに乗せてテーブルまで運んだ


ソファに座りジャスミン茶の香りに目を閉じた


「ジャスミンの香り大好き」


「ご機嫌は直りましたか、お姫様」


「フフ・・・はい」