「さぁ、着いたよ」


「・・・?」


「もう少しだけ、な?」


抱き上げられたまま乗り込んだエレベーターは一気に上昇する

おじさん越しに見えたエレベーター内の装飾に一瞬ホテルに連れ込まれたかと身構えてはみたけれど


到着した先に見えたホールに、肩の力が抜けた


「家?」


「あぁ、俺の家」


エレベーターを使ったからマンションだとは思うけれど
“家”のような重厚な門扉があることに驚く

そしてその門を潜ると御影石と玉砂利がセンス良く配置された和モダンな空間だった

先を歩く狛犬が電子錠を解除して玄関扉開けると
和服姿の年配の女性が立っているのが見えた

おじさんのお母さん・・?


「お帰りなさいませ」


「あぁ、ばあや、今日は下がって良いよ」


・・・ばあや、ということはお手伝いさん、だろうか

抱かれたまま観察しているうちに、私にも頭を下げたばあやさんは廊下の向こうへ消えた


気を取られているうちに入ったのは広いリビングルームだった

おじさんは私を膝の上に抱いたまま大きなソファに腰掛けた

居心地はすこぶる悪いのに
髪を撫でては「可愛いな」と甘く囁く声に迷いも生じて

明らかなるキャパオーバー


・・・帰らなきゃ


強引に連れて来られたにしては
私も油断し過ぎだ


深呼吸して天井を見上げた時
ポケットの携帯電話が鳴った

[祥子ママ]

(もしもし、みよちゃん?)

「祥子ママあのね、食事は終わったんだけど、おじさんのマンションに連れて来られたの」


助け船とばかりに捲し立てると、またもおじさんに携帯電話を取られた

「祥子ママ。大丈夫
もう少しだけ話したら送るから
そう。大丈夫、じゃ、また」

そしてまた勝手に切られた


「俺は随分とみよに嫌われたようだね」


微笑んでいるのに僅かな歪みも見えて警報音が鳴る


「ほんの数時間前に会ったばかりなのに勝手なことばかり
小娘だと思って揶揄ってんの?
何でも思い通りになると思ったら大間違いだからっ」


感情に勢いが乗る


「ハハハ。やっぱ気が強いなぁ」


間近で睨む私の頬をひと撫でしたおじさんは


「一ヶ月試しに付き合おう
それでダメなら諦めるからさ」


そう言うと私を抱いたまま立ち上がった