病院近くのお寿司屋さんに入ると
奥の個室に通された


「オレはみよのとなり」


拓斗はずっと手を繋いで離れない


「みよさん彬をお任せしても大丈夫ですか?」


お母さんが心配そうに言うから誘ってみる


「お母さんも一緒に付き添いますか?」


途端にお母さんはイヤイヤと手を振った


「私、病院の臭いが無理なの」


「ではお任せくださいね」


「ごめんなさいね」


お父さんはそのやり取りを見ながら


「夜だけでも家に来て寝たほうが
身体の疲れが違うんじゃないか」


私の身体を心配してくれた


「ありがとうございます
気持ちだけ貰っておきますね」


「ごめんねみよちゃん
何時でも代わるから連絡してね」


お姉さんも眉を下げてばかりで
彬の家族は良い人ばかりだ


食事が終わると病院のロビーまで送ってくれた一行と分かれた


「お帰りみよ」


「ただいま」


一階の売店で買った花を生けたら
少し病室が明るくなった


「彬、ずっと起きてたの?
みよは荷物を片付けるから、少し寝てて」


「あぁ」


キャリーバッグを引いて
大型クローゼットの扉を開けてみた
狛犬が入れた彬の物の反対側に洋服をかけていく

靴は二足と病室用のサンダル

ヘアアイロンとメイク道具は洗面台の棚に置いて

本はソファセットのテーブルに重ねた

この荷物を片付ける頃には
どんな気持ちが残っているのだろう


「入院してる俺より荷物が多くないか?」


「女子は何かと必要なんです」


「ククッ」


片付けが終わるとソファに座った


暫くすると彬の寝息も聞こえ始め
私は長編小説のページを捲った


コンコン


スライドドアが開き、院長と看護師長さん、看護師二人という大人数が現れた
午後の回診なのに彬は夢の中で


「夕方にするよ」


寝顔を確認した院長は私の頭を撫でて、看護師さんを引き連れて出ていった


小説を少し読み進めたところで彬の眠りが深いことを確認して
院内にある珈琲店へと下りることにした

通りに面した救急入り口のすぐ脇には全国チェーンのコーヒーショップが入っている

病院の中央にある中庭に面した珈琲店は病院設立当初からあるという小さな店

迷わず珈琲店を選んだ
店内はカウンター五席とボックス二席が間隔よく並んでいる

中庭の風景を取り込んだ大きな窓は
病院とは思えない雰囲気も出していて

想像以上の居心地の良さに
窓際のボックス席に腰を下ろしてコーヒーを注文すると小説の続きを捲った