ーーーーー翌朝



迎えに来た彬は私の部屋で正座した


「ごめん」


「全然怒ってないよ」


「でも、ごめん」


「じゃあ、お菓子で許す」


「あぁ」


寝落ちしたことなんて本当に怒ってないけれど
彼の気が済むなら折れても良いかと思えた


「どこの店にする?」


「デパ地下のお菓子でしょ」


「お姫様の仰せのままに」


中央駅前で車を降りると彬と手を繋いでデパ地下へと向かう


なにかの物産展の所為なのか
地階は家族連れで混雑していた


「これ、恐竜の卵みたい」


二人でドラゴンフルーツに目を奪われていると
小さな女の子が走ってきて、彬に打つかると尻餅をついて泣き出した


「大丈夫?」


立たせて頭を撫でてみたけど、益々大泣きする女の子
二歳くらいだろうか

周りを見ても親らしき人の姿もなくて

彬が見かねて抱き上げてみたけれど
泣き止む様子もない


彬と顔を見合わせて眉を下げたところで
前の通路から走ってくる女の人が見えた


「マリちゃん」


顔を見て安心したのか更に号泣する女の子はお母さんへと手を伸ばした


「お嬢さん尻餅をついたんです」


状況説明する私に目もくれない女性は
彬を見上げて固まった


・・・知り合いかな


彬も同じように固まっているから
二人の微妙な空気に胸がざわつく


「お元気、でしたか?」


「・・・はい、あなたも?」


「お陰様で・・・え、と
この子は今年三歳になります」


「結婚したとは聞いていたけど」


「あれからすぐ結婚したんです
今は主人の海外勤務で、アメリカに
今は休暇で実家に戻って来てて」


「そうでしたか」


「では、主人も一緒なので」


そう言った女性の視線が私に移った


「僕の彼女です」


彬に紹介されて頭を下げると


「可愛らしい彼女ですね
どうぞお幸せに」


私にも微笑んでくれた女性は
「では」と混雑の中へと背中を向けた


・・・あ

この女性はきっと政略結婚の相手


お見合いの席から逃げ出した相手と出会すなんて偶然に動けないでいると


「みよ、行こうか」


肩を抱いた彬は、そのことには触れなかった