奥さんや彼女は同年代でみんな普通

気を使って話し掛けてくれるところなんて良い人だと思った


「みんなマッスルサークルだったんでしょ?」


「みよちゃんそれは昔の話だよ
今でも脱げるのは彬だけ」


「彬、腹筋が消えたら罰ね」


「みよちゃん強いなぁ」


「そうだ。みよは怖いんだ」


「なによそれ」


「でも、こんな彬を見たことないよな?」


誰も信じないという彬の過去が無性に知りたくなった


「彬の昔の話聞きたい」


「教えてあげるよ!こっちにおいで」


彬の腕の中にいた私を窓際に連れ出したおじさん達は

学生時代の話や彼女の話を面白可笑しく話してくれた

昨日の合コンとは違って楽しい時間はあっという間に過ぎて行き


気が付けば夕方になっていて
次の約束をして解散になった


友達が帰った後はばあやと狛犬と一緒に片付けの手伝いをした

もちろん彬にもテーブルまで拭かせた


「みよ、ジャグジー入ろう」


「うん」


髪をアップにして
ジャグジーのスイッチを押す


「バラとかゼラニウムとか
バブルバスにしたい」


「・・・一緒に、買いに行こう」


「酔ってるね、眠いんじゃない?」


「・・・大丈夫」


友達との再会が楽しくて飲み過ぎたに違いない


本当はゆっくり入りたかったのに
簡単に切り上げてベッドに寝かせたら
あっという間に寝てしまった


朝まで起きないかもしれない

とりあえず[帰るね]とメッセージを送って

着替えると狛犬に送ってもらった


「今日の若は随分と楽しそうだった」


「ねぇ、なんで“若”なの?」


「あ〜それは若社長の“若”」


「そうなんだ」


「取引先とかも“若”呼びだな」


「へぇ」


「松本さんって彬を昔から知ってる?」


「大学を卒業した頃からなら」


「歴代の彼女の話も聞いちゃった」


「付き合った女性は数人だけど
若に強請ることしか考えてない中身のない女ばかりだった」


「お友達も普通の付き合いとは少し違ってたって言ってた」


「どのみち強請られるなら
水揚げに貢献してくれるクラブの女の方が
割り切れるし気持ちが楽だと思ったんじゃないかな」


「ある意味可哀想」


「みよさんは大事にしてあげるんだろ」


「みよは、嫌いになるまでだよ
同情で付き合う訳じゃないからね」


「若も随分とハッキリした人を好きになったもんだ」


珍しく饒舌な狛犬と、踏み込んだ話までしていることに驚いたけれど
この人はこんな風だと割り切れば
案外良い人なのかもしれないとまで思えるようになった