玉座のような重厚なソファが壁際を縁取るその部屋は
センターにテーブルはなく、ソファの間に小さなテーブルが配置されている

一瞬たりとも脚を崩せない緊張感に周りを見れば、お姉さん以外は脚を組んでいた

・・・残念


今回両隣に座ったのは

心療内科医の椎名さんとメンテで通っている歯科医の横尾さんだった


「間違ってたらごめんね
家の歯科に通ってる?」


「バレちゃいましたね
いつもお世話になります」


「おー、正解だ
定期検診には来てるよね」


「四ヶ月に一度のメンテです」


「偉い偉い、これからも続けてね」


ホワイトニングかプレートなのか
違和感アリアリの真っ白な歯に苦笑いしか出ない


「ねぇ、歯科の先生ってキスできないの?」


ふと思いついたことが口から出た


「できないかどうか試してみる?」


この返しは残念


「やだ、嘘だよ」


心療内科医の椎名さんは口数は少ないものの周りに流れる空気感が優しい

時折目が合うと微笑んで
ドリンクを取るタイミングも同じ


「みよちゃん。騙されちゃダメよ
椎名は昔から気持ちを掴むのが上手いのよ
今も多分やられてるはずよ・・・確かミラーリングだっけ?」


離れた席から絡んできたのはお姉さんだった


「余計なことを」


「・・・え、てことは本当?」


驚いて椎名さんを見ると


「ハハハ」と笑って解説をしてくれた

初対面の相手の気持ちを解すのに最も適してるというそれは

椎名さんの優しさでもあるんだと思った


普段関わらない人と話すととても刺激になるし、頭が良い人の話は飽きない

来た時よりは楽しめていることに気がついた


「みよちゃんはそろそろお開きね」


門限はないとは言え、まだ高校生の身


「みよちゃん、下に松本が待ってるから」


「お先に失礼します
今日はありがとうございました」


全員の視線を集めたところで丁寧にお辞儀をして黒服の先導で外へと出た


小さなバッグの中には男性全員に貰った名刺


大人の合コンは、暫くいいかな


呑気な私の目に飛び込んできたのは
デジャヴのように横付けされた車だった


・・・松本さん?


恐る恐る近づくと後部座席のドアが開いた


「・・・っ」
「おかえり」


私が驚くのと同時に彬が微笑んだ


「た、だいま?」


「クッ」


肩を抱かれて車に乗り込むとお決まりのように膝の上に抱かれた


「みよはエアバッグの代わり?」


「断じてそれはないよ」


「ふーん」


「パーティから、ほとんどみよに触れてないんだ、だから・・・」


「まぁ良いわ」


「ごめん」


彬の束縛も独占欲の強さも
一途に想ってくれることの裏付けになるはずなのに


頭を過ぎる“お試し”に
真意を探りたいと考えるようになってしまった