進級試験が終わったご褒美にと彬のお姉さんから連絡が来たのは
彬の仕事が落ち着くと聞いていた週末だった


(みよちゃん、彬に内緒ね)


そう始まったお姉さんの誘いは
ご褒美という名の合コンだった


(突然だけど今夜なの)


有無を言わせない強引さは遺伝らしい



お姉さんから届いた写真には
オシャレな店内と十人のメンバーが写っていた


スーツの男性と若作りの女性
どう見てもおじさんとおばさんの集いだ

もしかしたら私の倍くらいの年齢かもしれない
そう考えただけで着ていく服に悩んだけれど

結局、背伸びして大人の真似事をするよりは
若作りと若さの違いを見せつけようと

シースルーのワンピにミュール
巻き髪のサイドを緩くアップにして片側へ垂らした


「お母さん変じゃない?」


「後はメイクかな」


「だよね」


お姉さんに連絡をして
お迎えを父の会社に変更してもらった

デパートの一階にあるコスメコーナーへ行くと
友達の働く海外コスメのショップでフルメイクしてもらった


「合コンなの」


「勝負なのね!じゃあ気合い入れとくっ」


昔の連れだった友達の夏実は
私と同じ勝負好き


可愛く仕上げてもらって父の会社に向かった


「お疲れ〜」


アルバイトの格好とは明らかに違う装いに従業員の視線を集める


「なんか今日気合い入ってる」
「めちゃくちゃ可愛い」
「モデルになれるんじゃない?」


フロアを抜けて社長室に入ると父が固まった


「デビューか」


「なによそれ」


「可愛いってことだ」


「分かり辛いのよ」


「で、どこに行くんだ?」


「彬のお姉さんと合コン」


「・・・は?」


一瞬信じられないという顔をした父も


「他にも男は沢山いる」
ケラケラと笑うから


それを放ってフロアに戻ると土居さんの隣の席に座った


いつもなら食いついてきそうなのに
今日に限って雰囲気が冷たい


「なんか土居さん変」


「彼氏がいるのに合コンって
なんか浮気な気がするだよね」


原因は合コンらしい


「土居さんは頭固いのね
お見合いじゃないのよ?」


「見合いと同じだと思うけど」


会話は続いているのに、視線はパソコンのモニターから離れることはなくて

土居さんの口癖が頭に浮かんだ


「男は自信がなくて独占欲の強い生き物だっけ」


「そうですよ」


「あ~なんか彼に怒られてる気分」


椅子をクルクル回転させながら
気を引こうとしたのに不発に終わった


「みよさんの彼氏は快く送り出してくれたの?」


「彼には言ってないの」


その言葉にだけ食いついた


「言ってないって別れたの?」


「別れてはないけど、彼も私も忙しいから、別に話す必要もないかなって思って」


「何かあった?」


素っ気ない態度から急に優しい声になった土居さんに


お試しの話から順序立てて話してみた


「それって、昔会った子と再会したから“お試し”をしてみよう、的な。謂わば彼氏さんの思惑みたいなもんだよね」


「・・・確かに」


そうでなければ“お試し”の必要なんてない
私が“お試し”で付き合っているのではなくて
彬の“お試し”に付き合わされいる
そう考えただけで全てが納得できた


「で、合コンなの?」


「だってセッティングしたの
彼のお姉さんだよ」


「それは意外」


「男性は全員お医者様だって」


「サラリーマンの敵だ」


「「フフフ」」


笑い合ったところでお姉さんが入ってきた


「みよちゃん可愛い〜」


そのままの勢いで父に挨拶をすると
迎えの車に乗り込んだ


「いつもとメイク違う?」


「デパコスで勝負メイクにして貰ったから」


「若いってだけで負けてるのにズルいわ」


口を尖らせたお姉さんには
若さでしか勝てない気がする