くだらないお喋りをしながら
大通りの対岸の歩道を歩く女の子に気が付いた

時折こちらを確認しながらペースを合わせて歩いている


「土居さん」


不意に呼び掛けて立ち止まると


「ん?」土居さんも立ち止まる


そして・・・対岸の子も立ち止まる


何回か繰り返すも同じ結果で
間違いなく付けられていることが確定した


「土居さん。さりげなく、さりげなく対岸の歩道を見て?ずっとつけてる女の子がいるの」


「えっ」


車道側を歩いていた土居さんと立ち位置を入れ替わり
私を見る振りで女の子に視線をやる土居さんは


「あっ」急に立ち止まった


「どうしたの?知ってる子?」


「うん・・・元カノだ」


「へぇ~なんでつけられてんの?」


「分かんない。なんでだろ」


「土居さんと歩いてたら
みよが恨みを買ってしまうかも」


怖い素振りはしてみたものの
怖いというよりは楽しくて仕方ない


「みよさん次の角を左に曲がったら
走ってみよう。ヒール平気?」


「うん。走れるよ
曲がってからどうする?」


「僕についてきて」


「了解」


角を曲がった瞬間走り出す

もちろん、対岸から間に合うはずもなく
簡単に元カノを撒いた


息が上がったまま着いたのは城山公園近くのビルだった


「ここの三階」


夫妻が切り盛りする小さなお店は
バーの居抜き物件を利用しているらしく
カウンター席だけの落ち着いた大人の雰囲気


「ここ、良いね」


「だよね、この前友達に連れて来て貰ったんだ」


土居さんオススメのランチを注文

しばらくすると土鍋に入ったビーフシチューが運ばれてきた


煮立った土鍋がテーブルに置かれると遂に携帯電話の電源をいれた


もちろん写真を撮るためだけど
延々と震える着歴にため息しか吐けない

落ち着いたところで


「土居さん撮って」
  

ビーフシチューと写真に収まって
そのまま彬に送信した


途端に着信音が響き
そのまま耳に当てた


「ん?」

(やっと電源入れたか)

「フフ」

(それどこ?)

「秘密」

(この写メは誰が撮った?)

「それも秘密」
そう言って終話をタップすると手を合わせた


「「いただきます」」


「美味し〜」
「やっぱ美味しい」


大きなお肉は歯が要らないほど柔らかくて
濃厚なソースはバゲットを付けたり
そのまま味わったり

土居さんはあっという間に平らげてしまった


「どんだけ腹ペコ?」


「底なし胃袋かも」


頑張って食べたけれど
半分食べたところで量の多さにギブアップした


「僕が食べるよ」


「・・・え」


彼女でもない子の食べ残しだからと断るつもりが


止める間も無く食べ始めてしまった


「あっ、スプーンみよの」


土鍋に入れたスプーンをそのまま使う土居さんは


「あ、まぁ、良いか」


案外適当なのかもしれない


食後のコーヒーが出てきた時には
話題は元カノに戻っていて


ストーカーチックな状況を煽っておいた


しかし・・・土居さんが振られたらしいのに
大っぴらに付けるなんて腑に落ちない


ランチを終えて外に出たあとは
周りを気にしてみたけれど
元カノの姿はなくなっていた