「みよの彼って最初のイメージより女々しい感じじゃない?」


少し離れた場所に居たはずの姉が近づくと鋭いひと言を放った


「良いなと思えたのも錯覚か
遠い過去みたいに思えるから怖い」


「あららら」


姉は大袈裟に両手を広げた


「お試し期間、終わる頃じゃない?」


「そうなの」


会が進むごとに酔ってきた父と
早々に切り上げるために姉と一緒に手を引き会場を後にした


「ほら、帰るよ」


家に帰り着いたあとは
翌日のために携帯電話の電源を落とした


彬とのお試しが始まってから
携帯電話の電源を落とすことを一番に考えるようになった
いつから予防線を張るような女になったのか
思い出せないけれど笑える状況には変わらなくて


ーーーーー翌日


加寿ちゃんにパーティーの報告がしたいと家電から連絡を入れると自転車でやって来た


「昨日、直也に会ったの」


「直也って、あの直也?」


「そう、あの直也だよ
直也のお父さんの会社も業界が同じだったみたい
黒髪にスーツを着て、背も高くなってるから誰だか一瞬分からなかったの
決定的なのは眉毛があったことかな」

本当は携帯電話で写真も撮ったけれど
それは電源を入れた時に送ろうと思う


「えーー、直也に眉毛があるとか笑える」


「でしょ?高校が厳しくて有名な全寮制だったからだって
結局それが今の直也につながってる気がする」


「イメージが湧かない」


「懐かしくて話してたのに彬がきてさ
一触即発だったんだよ」


「えっ、彼氏から聞いてないよ」


「お試し期間が昨日で終わりだったけど
結局なにも言わずに帰って来ちゃった」


加寿ちゃんと話し始めると止まらず
結局、パーティーの話から彼氏のこと、大学へと移り変わり
車のことやバイトのことと続いた所為で
あっという間に時間が過ぎていた

もちろん出掛ける時間も無くなって、部屋でお喋りしただけで加寿ちゃんは帰って行った


三学期は選択登校という制度を利用したお陰で、単位の取れていた私と加寿ちゃんは卒業式まで学校へ行かなくても良くなり


それを聞きつけた父によって
会社の手伝いを強要された


父の会社NEXTOPの持つ賃貸物件の案内とデータ入力が主な仕事だけれど


この時期は猫の手も借りたい程忙しいらしく

車を買って貰うという邪な思いも重なって喜んで引き受けることにした


中央駅前の複合型商業ビルのオープンに合わせて
父の会社は一階に移転が決まっている


今と然程離れてはいないけれど
不動産屋としてはアクセスの良い場所にある方が得らしい


ただ、これまでは自社物件を多く抱える専任契約ということもあって、駅から徒歩十分でも足を運んで貰えたそうだ


中央駅近くに多く点在する管理物件は問い合わせも多くて、ネット予約がいつも満員

手伝いのためのリクルートスーツを買って貰うと早々にアルバイトが始まった