更に直也が肩を引き寄せるからバランスを崩して腕の中にもたれる


「その手を離せ」


彬が手を伸ばした瞬間


「なんだお前」


直也も眉根を寄せるから
一触即発そんな言葉が頭を過ぎった


「直也、私の彼氏」


「・・・え?」


告げた事実に回されていた直也の手が外れた


「そういうことだから」


相変わらず睨み合いは続いているのに


「みよ本当なのか?
年の差半端なくねぇ?」


耳打ちしてくる直也に苦笑いしか返せない


「お父さん。みよさんをお借りします」


彬が私の手を取ろうとした途端
これまで静観していた父が口を開いた


「まだこちら側の紹介も済んでいないのに連れて行かれたら困る」


強い語気で彼を制すると
一瞬息を飲んだように見えた彬も


「失礼しました。では後ほど」


直也を睨んだまま狛犬と人集りの中へと消えた


「山下さん大丈夫ですか?
私共なら構わないのに」


直也のお父さんの恐縮も


「大丈夫ですよ娘を嫁に出した訳ではないからね」


父は気にもしてない様子で雑談に戻した


「いつから付き合ってんだ
あのおじさんと」


「一ヶ月くらい」


「そろそろ別れるだろ」


「フフ」


「みよのお父さん、俺の方がみよを大事にできます」


「アハハ面白い息子さんだ」


「恐縮です」


直也のお父さんが頭を掻いたところで
司会者の声がスピーカーから聞こえてきた


「ご来場のみなさま・・・」


壇上に協会のおじさん達が並び
紹介や挨拶が始まると退屈になった


「みよの彼氏。何でガードつけてんの?」


「詳しくは知らないけど常に一緒だよ」


「息が詰まるな」


「確かに」


「携帯番号教えて」


「うん」


新しくなったお互いの連絡先を交換した


会食の始まりとともに
父が姉と私を紹介して回り

気がつけば直也もいつの間にか居なくなっていた


「お嬢も来とったか」


大きな声に振り返ると彬のお父さんが手招きをしている


父と姉も挨拶を交わしたところで彬がやって来て連れ出された


「・・・ちょっと、ゆっくり歩いてよ」


窓際の席に着くまで早足をやめなかった彬の所為で
ピンヒールを履いているのに小走りになった


「さっきのアイツは誰だ」


「だから同級生だけど」


「ベタベタして親密そうだった」


「五年振りの再会に、距離感が近かっただけじゃない?」


「再会って距離感がバグるのか?」


「中学時代の仲間で同級生、それ以上でもそれ以下でもない」


「不安しかない」


「勝手に不安になってるだけじゃん
彬だってクラブの女と腕組んで歩いてたじゃん!彬は良くて私はダメなの?」


ヒートアップする言い合いに父が割って入った


「こんな場所で喧嘩か?周りを見ろ!彬君も今日のところは下がってくれ」


ハッとしたように周りを見た彬は頭を下げた


「申し訳ありません」


父が止めてくれなかったら大喧嘩になっていた


お試し期間が終わるはずの今日





僅かに残っていた余白が消えた