ーーーーークリスマス


彼はラフな格好で迎えにきた

モデルみたいな姿に見惚れているのは母で

父は新聞から顔を外さないまま返事をしていた


「クリスマスとはいえ外泊は認めないからな」


「はい、お預かりします」


骨董品でも預かる勢いの挨拶に
吹き出しそうになるのを堪える


父の前で手を繋ぐと態とらしい咳払いが聞こえた


車に乗り込むと竹田さんは居なかった


「クリスマスだから
友達に譲ることにしたよ」


「フフ、ありがとう」


車が動き始めたタイミングで
バッグから小さな包みを取り出した

昨日、姉を足にして急遽ショップで買ったプレゼントは
クリスマスカラーのラッピング済み


「クリスマスプレゼント」


「・・・え」


鳩豆顔のまま固まった彼の手に包みを握らせると

そのまま抱きしめられた


「ありがとう」


「開けてみて」


「あぁ」


革細工の工房で買ったのはキーホルダーで
彬の名前を型押しして貰った


「凄く嬉しい」

と頭の天辺でリップ音が鳴った


「みよはセンス良いよな」


「私を誰だと思ってんの?」


「みよ」


「正解」


くだらないやり取りをしている間に
目的地に着いていたらしく

車を降りると大きなホテルが見えた


「ランチは此処」


一階にあるレストランはお庭を眺められるテーブル席が人気らしい


「一緒に」と誘ったけれど
狛犬は「別の席で」と離れた席に座った


デザートはサンタクロースの隠し絵の描かれたプレートに乗ったフォンダンショコラだった

それに魅入っていると不意に声をかけられた


「お久しぶりね」


顔を上げた先に立っていたのは派手な女性で

またかと思っているうちに彬に向けて微笑んだ女性は肩に手を乗せた


直ぐ様「触るな」と振り払った彬に、一瞬表情を崩した女性は

今度は私に視線を寄越すと鼻で笑った


「ずいぶんと可愛らしい子ね
妹さんかしら?」


上品さのカケラもない態度で見下す姿に呆れたけれど

まともにやり合う相手でないことは理解したつもり

ただ、絡んだままの視線を外すことは負ける気がして出来なかった


そんな一触即発の事態を収集したのは
慌ててやってきた松本さんだった


「聞いてもいい?」


「あぁ」


「あれは?」


「クラブの女」と短い言葉で終わらせた彬は
「ごめん」と謝った


余りに多い女の陰には慣れないけれど
態々、向き合うのも馬鹿らしいと思えてきて


気持ちが波立つことはなかった