少し寝るつもりのお昼寝から起きたのは十九時を過ぎたところだった

出掛けようとしてリビングルームに入ると誰もいなかった


「誰もいないね」


「・・・だな」


「お父さんに迎えに来てもらおうかな」


「なんで?」


「彬、運転できないんでしょ?」


「んな訳ないだろ」


「え・・・そうなの?」


「あぁ」


いつも狛犬の運転だから、彬は免許がないと思っていた


「お出かけですか」


ダイニングに繋がる扉から入ってきたばあやは美味しそうな匂いも連れてきた


「夕食を召し上がられるかと用意はしましたが、お出かけなら・・・」


申し訳なさそうに頭を下げる様子に


「いただきま~す」


断る理由はなかった


「では、直ぐに温めますね」


嬉しそうなばあやを見て
こんな日も良いなと思った


独立した広いダイニングは
八人掛けの大きなテーブルが中央に鎮座している


向かい合うより隣に座りたくて繋いだままの手を離さなかった私に
彬は嬉しそうに椅子を引いてくれた


用意してくれた鍋を食べながら
彬の子供の頃を聞かせてくれるばあやの話しは
ちゃんとオチがあって楽しい


給仕に徹するばあやは話しながらも
器が空になるとサッと手を伸ばす

我が家では想像もつかないお手伝いさんは気の利く素敵な人だった


自宅に送って貰う頃には松本さんも戻っていて
やっぱり運転できないんじゃないかと疑ったりした


家に帰ると姉が部屋にやってきた


「仲直りしたの?」


「まぁね」


「みよの場合喧嘩じゃないけどね」


「ひと言多いのよ」


「あ〜学生の頃に戻りた〜い」


「仕事がいやなの?」


「嫌じゃないけど、最近仕事を増やされたのよ
お父さん、もうみよを諦めたのかな」


「えりが継いだって良いじゃん」


「困るの、彼氏長男だから養子には来てもらえないよ」


「彼氏いたんだ」


「もうっ、失礼ねっ」


「結婚しても仕事はできるでしょ?」


「そうはいかないの
これだから子供は困るのよ」


「なによ大人振って
長女なんだからなんとかしなさいよ」


家のことも、姉のことも
高校生の私にはまだまだ遠い話しに思えた