微睡から目覚めたのは夜だった


「お腹すいた」


「だな」


「出掛ける?」


「・・・ばあやが作ってるかもしれない」


「ん?」


「この二日家にいたから、ずっとばあやのご飯だったんだ」


少し項垂れた彼の頭を撫でていると


バタン

勢いよく寝室の扉が開いた


「・・・?」


慌てて布団の中に潜り込むと


「おじちゃ~ん」


可愛らしい声がベッドの上に飛び込んできた


「帰ってきたか」


シーツから恐る恐る顔を出せば、五歳位の小さな男の子が見えた


「だれ?このこ」


可愛い人差し指は私のオデコに刺さった


「・・・フフ」


“この子”なんて言われたのは初めてで吹き出してしまった


「拓斗、着替えるからばあやと待ってて」


「うん。わかった」


遅れて入ってきた狛犬に連れ出された男の子は甥っ子らしい


「姉貴の息子で香港に住んでるんだ」


「私のこと“この子”って言ってた」


思い出すだけでツボにハマる


「ごめんな、ご飯は二人きりじゃないかもしれない」


着替える間も何度も啄むように口付ける彬と
リビングルームまで手を繋いだ


「はじめまして」


座っていたソファから立ち上がった彬に雰囲気の似た綺麗な女性は


「彬の姉の愛実《まなみ》です」


そう言うとフワリと微笑んだ


ストレートの長い黒髪とスタイルの良さはモデルさんみたい


「はじめまして、山下みよです」


出来るだけ丁寧に頭を下げると


「なに〜、めちゃくちゃ可愛いんだけど
彬になんて勿体ないわ〜」


風貌とはかけ離れたコミカルな動きで握手をしてくれた


「いつこっちに?」


「昨日よ、春から彼が日本勤務になるから家も探してる」


「実家で同居しろよ」


「この子の学校のこともあるから
本当はここがいいの
下の階は貸してないんでしょう?」


「家族向きじゃない」


「リノベーションね」


「・・・考えておく」


彬の膝の上に座って私と手を繋いだ拓斗は
手を離さないまま話しかけてきた


「おなまえは?」


「みよです」


「みよはかわいい」


繋いでいない手は髪を撫でていて
そのマセた仕草に驚く

更には


「みよは俺の彼女だ」なんて彬が拓斗と繋いだ手を無理矢理離すから


拓斗は頬を膨らませて
「こどもだな」と彬を挑発した


「「「ブッ」」」


これじゃあどっちが大人か分からない

盛大に吹き出したあとは一気に距離が縮まった