別れを切り出したのは自分なのに


燻る気持ちは

もう少し頑張れたんじゃないかと責めてくる



携帯電話を持っていない現実は

番号も覚えていない自分に気付かされただけで


歩み寄ることもしなかった罰のようにも思えた



雨混じりの雪が頬に当たって痛い



低い雲が先に進もうとする気持ちを遮って
落ちた気分を涙に変えた



「帰ろう」



小さく呟いた、刹那



「みよ」


広場に低い声が響いた



「・・・っ」


声の主を探すように動いた視線は
見覚えのあるシルエットで止まった


黒のロングコートを着た彼は

車道に止めた車の横で
おいでと言わんばかりに両手を広げて立っている


「・・・っ」


夢中で駆け出すと勢いよく胸に飛び込んだ


「・・・おっと
こんな場所で泣いてたら
またさらわれるぞ」


突然別れを告げた私を責めることなく


「会いたかったよ」
彬は甘い声を聞かせてくれた

だから


「・・・うん」


今はこれが精一杯



「嬉しいよ、みよ」



踏み出せた一歩は頭で考えるより簡単だった


寒いだろうと車に乗り込むと
離れたくないという彬に膝の上に抱かれて


「みよ専用」という可愛いブランケットをかけてもらった


「どうして、あそこにいたの?」


「・・・上手く言えないんだけど
みよが泣いてる気がした」


マンションに到着すると、冷えた身体を温めるために
ばあやが鍋焼きうどんを作ってくれた


「やけどに気をつけて」


「うん」


お出汁の良い香りに
心も身体も温まった


彬と手を繋いで寝室に入ると
ベッドの上で向かい合った


「ごめんね」


何度も何度も頭を撫でる彬は


「もう、良いんだ
戻ってくれたなら、もういい」


そう言うとオデコに口付けた


「今日は泊まっていく?」


「・・・無理だよ」


「・・・だよな
でも・・・帰したくない」


私を見つめる瞳は揺らいでいて


不安だったことが窺える


「彬、大丈夫?」


「大丈夫だよ」


言葉と裏腹に彬の表情は固いままで
こんな顔をさせているのが自分だということに少しの罪悪感を覚えたのに


それも・・・


「繋いで躾直しだな」



そのひと言で・・・淡く消えた



「みよ、愛してる」



極上の甘い囁きも
肌を合わせても


「愛してる」


言葉と同じくらい口付けても



埋まらない胸の隙間は




ジワリ・・・広がった