ーーーーー翌朝



「みよちゃん。目が腐るよ」


母に無理矢理起こされたのは八時だった


「実はね、彬さんから沢山電話をもらったの
不安だって言って昨日の夜は家まで来たのよ」


「・・・え」


「でもね、みよちゃんが自分から会う気になるまで待つようにお願いした」


そう言われてしまうと、なんだか
私だけが拗ねているだけみたいに思える


朝ご飯を食べながら指輪を眺めてみた

父は新聞を読みながら難しい顔をしている

箱に収められたそれを見ながら母も姉も「綺麗ね」なんて燥ぐからなんだかモヤモヤした


「私のだから、返して」


「あら、みよのなの?」
クスクスと笑い始めた姉


腹が立つけど、今回は私の負けだ


「お姉ちゃん」


「ん?」


「ありがとう」


“お姉ちゃん”なんて呼ばれたこともない所為か一瞬、鳩豆顔になった姉も


「いつでも相談に乗るからね」


いつものように大袈裟な手振りで笑うと、父と一緒に出勤して行った


八つの年の差があるからか
姉と喧嘩はしない

それは仲が良いとかではなく
姉の我慢の上に成り立ってることは周知の事実

だから、昨日みたいな姉は初めてで
なんだか嬉しくもあった


「みよちゃん、お母さん出掛けるね」


「・・・どうぞ」


友達と待ち合わせという母が出掛けてしまうと
独りぼっちの家は落ち着かなくて

とりあえず支度をしてみる

だからと言って約束も予定もなくて
メッセージをチェックしてみた

友達から誘いのメッセージが数件来ていたけれど、大して気持ちも動かず

クリスマスプレゼントを探すために
デパートへ出掛けることにした


電車を降りると街はクリスマスカラーで溢れていて
聞こえてくるオルゴールの音色に歩幅が弾む


駅ナカのショップからデパートへと移動しながら家族へのプレゼントは比較的簡単に決まった

父には手袋、母には欲しがっていたマフラー

姉には奮発して綺麗なコンパクトを買った


全て揃ったはずなのに、止まらない足の理由はただひとつ


彼の顔を思い浮かべて
プレゼントを選ぼうとするのに

気付いてしまった現実に
足が止まってしまった



私は・・・

彼のことをなにも知らない

好みのものも、好きな色も匂いも
愛用品だって


なにも知らない


いや、知ろうとしなかった


胸が締め付けられる感覚に
見えていた景色が揺らぎ始めた


・・・泣かない


自分から手放した癖に
泣くなんて・・・狡い


デパートを飛び出すと駅前広場は
大きなクリスマスツリーが光っていた



行き交う人は皆急ぎ足で
喧騒の中に居るはずのない彼の姿を探す