パスタが食べたいと言った私のために
選んだのは夜景の綺麗なホテルのレストランだった

大人の彼と付き合うことで手に入れた背伸びは
等身大の自分を霞ませてしまう


「どうした」


僅かな変化に気付く彬に、どうにか笑顔を貼り付けて話を変える


「今日は加寿ちゃんデートなの」


「それで竹田は休みが欲しいって言ったんだな」


「上手くいってるみたいでホッとする」


「そうだな」


会話が途切れたタイミングで彬の携帯電話が鳴りだした


「・・・ちょっと、ごめん」


取り出したのは仕事用の携帯電話

立ち上がって個室の隅に移動する姿を見るだけで

その場で出られない電話なのだろうかと視線が追う


「もしもし・・あぁ
いや・・・今夜は無理だ
また連絡くれるか、あぁ」


離れているのに漏れ聞こえてくるのは女性の声で

またひとつ深いため息を吐いた


電話を終えて席に戻った彬は、何事もなかったかのように食事を再開する


その姿を見るだけで心の中でため息を吐いた


繁華街の店を多数経営する彼からすれば
同伴依頼なんて溢れるほどあるに違いない

同伴って経営者に頼むもの?
売り上げを伸ばすための顧客への根回しだと思っていただけに

経営者が売り上げに貢献しているなんて滑稽に思えてしまう


電話の相手ことも、聞けば彬は答えてくれるはず

けれども、滑稽にも思える疑問を聞いたところで
私の納得いく答えなんて出ないんだと思った


だから・・・子供の私は口にすることを諦めた


なんとかデザートまで食べきったあとは


「疲れたみたいだから帰るね」


離れることを選んでしまった


「昨日退院したばかりなのに
長い時間付き合わせたからだな」


その割に、彬がそれをあっさり受け入れたことも

全てが滑稽な世界へと繋がる気がして
醜い思いに蓋をするように俯いた



理解し合えない思いは
この先も交わることは・・・ない




黙ったまま着いた家で車を降りたあとは
「おやすみ」も言わずに背中を向けた


電気もつけずにベッドに潜り込めば
胸の靄が溢れてきた


・・・無理


背伸びした大人の世界は
思っているより不自由で

もう少し子供でいたいと答えが出るのは直ぐだった






[今日であなたと別れます
一ヶ月の期限を待たずに答えを出したのは
これから先もあなたを好きにはならないからです
指輪は父からお返しします
さよなら      みよ]






何度も何度も鳴る携帯電話の電源を落として部屋の鍵を閉めた