謝ったら負けだと思う私とは違って
彬は折れて謝罪を口にする

しかしそれは最終的に謝るというだけで

一々突っかかるところが喧嘩の種になっている

実は似過ぎているのかもしれない

そう結論付けただけで
クスっと笑いが出た


「やっと笑った」


「そうかな?」


「そうだよ。ずっと怖い顔してた」


抱きしめられたまま聞かされたのは
「愛してる」という甘い囁きで


「みよは?」


「どうだろ」


簡単に別れを口にするところは
まだなんだと思う

ただ、全くの他人よりは情は湧いている

それが愛情かと聞かれれば
迷いなく“違う”と言い切れる自信がある


「ジャグジーに入るか」


「嫌よ、折角髪を巻いたのに」


「前に置いて帰った髪留めがあった」


「もぉ」


「ほら、おいで」


やっぱり強引さは遺伝だろう

彼氏と一緒のお風呂に入るというよりは
また別の感情のような気もしていて

結局のところ考えるより先に、彬のペースに乗せられているんだと気付いた


「あーやだ、ほんとやだ」


文句を言う私を彬はケラケラと笑う

その笑顔を見るだけで、腹を立てていたことすら流せる気がする


だから・・・意地っ張りは封印


「指輪って外さなくていいのかな」


「大丈夫だよ、着けてくれているのを見て
今日は凄く嬉しかったんだ」


「・・・フフ」


気持ちをストレートに伝えてくるのは、くすぐったさがある

そのお返しに自分なりの言葉にしてみようと思った


「赤とピンクが好きだから・・・
違う・・・これは気に入ったの
だから、ありがとう、彬」


視線を合わせていた彬の顔が驚きに固まったあと、みるみるうちに破顔した


「なんだよ、急に可愛いこと言うの反則」


ジャグジーの中で抱きしめられた身体からは
少し早い彬の胸の音が聞こえた気がした



「逆上せちゃう」


胸を押して離れると抱き上げられた


「さぁ、お姫様」


丁寧に拭かれてバスローブを着せられたあとは、また抱き上げられた


「少し眠って良いよ」


ベッドの中でも抱きしめられた温もりと背中をリズムよく撫でる手に


微睡む意識を手放した



・・・



「みよ」


目蓋を持ち上げると、頭を撫でている彬が見えた


「おはよ」


「二人とも寝たんだね」


壁の時計は夕方を指していた


「ご飯を食べに行こうか」


「うん」


着替えをしてリビングルームに入ると松本さんがいた


「親父の付き人に戻ったんじゃないのか?」


「今日は社長に臨時の運転手を頼まれまして
ご迷惑をお掛けしました」


お父さんと一緒の理由はそれらしい


「お出かけですか?」


「いや、いい」


重い空気のまま地下に下りると知らない運転手さんが車で待っていた