【彬】


タイミングが良いのか悪いのか
指をスライドさせて耳に当てると


(みよ、出かけているのか)


少し焦った声が聞こえた


「そう、出掛けてる」

(友達か?)

「あなたのお父さん」

(・・・っ)

電話の向こうで声を詰まらせた彬は
「迎えに行くから待ってて」と
大慌てでやって来た


「どういうことですか」


不快感を露わにする彬と対照的に

お父さんは街で見かけた私を誘って此処に来たことと、結婚の話しをした


「勝手なことをしないで下さい」


面倒事から連れ出されたあとは

車の中で謝罪の言葉を延々と聞かされることになった


そのまま送って貰えると思ったのに
着いたのは彬のマンションだった



・・・面倒


長くなりそうな雰囲気に心の中でため息を吐き出した


ベッドに腰掛けた私の前に座った彬は両手を握った


「何を言われた?」


「さっきお父さんが説明した通り」


「ごめんな」


「お父さんが引退したいから結婚を急がせたいみたいよ
私は無理だから、誰か他をあたってよ」


「怒ってるよな・・・ごめん」


謝罪を受けたところで苛立ちは消えそうもない

これ以上一緒に居ることは二人のためにはならないだろう


「帰る」


「体調が悪いのか」


「・・・ううん」


「じゃあもう少しだけ」


「強引なところは親子でソックリだよね」


「親子だからな」


アッサリと認めたところにも腹が立って


「なによ!もう別れよう」


極論に達する


「そんなに怒ることはないだろ」


「怒ってないっ」


手を振り解いて立ち上がると、同じように立ち上がった彬は「ごめん」と言うと

腕の中に閉じ込めた


苛立ちの理由はお父さんで
彬に打つけるのは理不尽だとは分かっているけれど

これまでの軽い付き合いとは違う
“家”の絡む事態に

ため息しか出てこない


「みよは本当に別れたい?」


「うん」


「色々を取っ払って、俺だけを見ても
別れたいと思うか?」


「・・・面倒」


「・・・ん」


「十八歳の私に結婚の話を持ち出す付き合いが面倒」


「それは申し訳ないと思う」


「結婚ってね・・・
誰かの為じゃなくて二人の気持ちが同じことが大切なんだよ
気持ちの入らない結婚なんて私はしない」


「俺も同じだと思う」


「それでいいの?もっと簡単な恋愛が、周りに沢山転がってるんじゃない?」


「俺の想いはこの先もブレないよ」


真剣な瞳を見せた彬は
「最後にもう一回だけ」と頭を下げた