おじさんフラグが二本立ちました




退院許可が出たのは四日後だった


迎えに来てくれた彬と車に乗り込むと
運転は松本さんだった

お礼の挨拶をしたけれど
返ってきたのは黙礼だけだった


寄り道もせず真っ直ぐ送ってくれた彬は
出てきた母に挨拶をすると帰って行った


「見れば見るほどイケメンよね」


おじさん呼ばわりしているけれど
二十代にしか見えない彬はイケメンだと思う

厳密に言えばタイプではないだけ




ーーーーー翌日



終業式には出席したけれど

病み上がりの私を気遣った父が送迎をしてくれたお陰で、お昼前には家に戻っていた


部屋着に着替えようとした途端
届いたメッセージに手を止める


【勝也】


[話したいことがあるから
近くまで出られるか]

  [うん]

待ち合わせた本屋には、既に勝也の姿があって


「ごめん」
 

大袈裟なくらい頭を下げられた


「いいよ。私も悪かったから」


加寿ちゃんの言い付けも忘れて許してしまった



・・・



「・・・退屈」


今日くらいは家で過ごそうと思っていたけれど

余りに暇で早々に諦めた


駅ナカの雑貨店だけだと自分に言い訳をしながら支度をする


電車を降りたところから、こんな日に限ってキャッチに捕まった


「彼女可愛いね~ちょっとだけ話し聞いてよ」


ガン無視に諦めるキャッチもいれば
新たなキャッチも出現する


仕方なく父の店へと足を向けたのに

最後に現れた鼻ピアスの男は諦めてくれず
目の前に回り込んできたから足止めを食らってしまった


「ちょっと!ウザイんだけど」


「良かったぁ。やっと話す気になった?」


「ウザっ」


「怖い顔もチョー可愛いんだけど」


果てしなくウザい男が私の肩に手を置こうとした瞬間、大きな影がかかった


「イタタタタ」


突然の悲鳴に顔を上げると、松本さんが男の腕を掴んでいた


「俺、何もしてないっすーーーっ
失礼しましたぁぁぁぁ」


掴まれていた腕を振り解いた男は
逃げるように駆けて行った


「隙だらけで歩いてるから」


「何?尾行?」


「今日は社長に同行」


「・・・え」


“社長”というワードに車道を見ると、黒塗りの車の窓から彬のお父さんが顔を出していた


・・・ハァ


意を決して近付くと


「絡まれているお嬢ちゃんを見掛けたから
年寄りのお節介が出てしまったよ」


お父さんはそう言って笑った


「ありがとうございます
助かりました」


「これから餡蜜を食べに行くんだが一緒にどうかな」


「今日は、予定が・・・」


「少し話しもあるんだ、予定変更できるかな」


強引なのは親子でソックリだ


「分かりました」


渋々ながらも承諾した途端、狛犬が後部座席のドアを開いた