ツンとした臭いに重い目蓋を開く


薄らと見えた真っ白な中に
両親と彬と加寿ちゃんの顔が見えた



「良かった、気がついた
ナースコールしてっ!」



母の声が頭に響いて眉を顰める


・・・ナースコール


ということは病院?


酷い頭痛の所為で瞬きだけで涙が溢れる

動かせそうもない身体には
点滴が繋がっているのが見えた


「みよちゃん」


眉を下げた加寿ちゃんは、私の頭をひと撫ですると、あの後慌てて竹田さんに連絡したことを教えてくれた


「ごめんね」


「見つけてくれたのは松本さん
熱が高いからひとまず入院だって」


もう一人の狛犬の名前を今知った


「それとね・・・」


コッソリ教えてくれたのは、勝也を叱ったという話だった


入れ代わりに近付いた父は


「父さん、寿命が縮まったよ」


頭を撫でてくれる手が震えていた


「ごめんね」


「いや、辛いところはないか?」


「うん」


最後に手を握った彬は
「生きた心地がしなかった」と項垂れた


「・・・ごめん、ね?」


「あぁ、こんなのはもう二度と無しな」


「うん」


「肺炎をおこす一歩手前らしい
安静にして早く治すこと」


代わる代わる頭を撫でられたあとは
当直の医師の問診を受けた




ーーーーー翌日



熱が下がらない所為で点滴は繋がったままだけど
ベッドを起こして外の景色を眺める余裕もできた


暇を見つけては何度もお見舞いに来る彬は
来るたびに花を持ってくる


夕方顔を見せてくれた加寿ちゃんは
勝也からの手紙を預かってきてくれた


右下がりの癖のある懐かしい字は

[ごめん]とひと言
そして・・・
退院したら会って欲しいと書いてあった


どちらか片方が悪い訳ではないけれど


「簡単には許さないよ」という加寿ちゃんに任せるつもり


加寿ちゃんが帰ったあと
命の恩人の松本さんがお見舞いに来てくれた


「ありがとうございました」


「あぁ、昨日より顔色が良くなった」


頬を緩めて頭を撫でる手を受け入れたのは
助けて貰ったからなんだけど


普段から表情筋を使わない松本さんと
笑顔で話す日がくるなんて激レアだ


「お大事にな」


「うん」


本当に顔を見に来ただけらしい松本さんは数分で帰って行った




・・・



次に気がついた時には
ベッドサイドに彬がいた


「いつ来たの?」


「一時間位前かな」


「起こしてくれればいいのに」


「まだ熱があるから、寝てる方が安心」


「熱が下がれば退院して良いって
終業式に間に合うかな」


「間に合うといいな」


「うん」


「消灯チャイムが鳴るまでな」


そう言ってお喋りを続ける彬は
気にしていないようだけれど


「この病院の面会十九時までって知ってる?」


「此処の院長は俺の友達」


悪怯れることもなく
結局、二十一時の消灯とともに名残惜しそうに帰って行った