「大人って、オッサンだろ」


私の怒りは勝也には伝わらなかったようだ

煽られていると分かるのに
もう感情が止められない


「なに、なんなの」


「お前だけ先に進んで
俺はずっと立ち止まったままだ」


「それは私だけの所為?」


突然の言い合いは
周りの視線を集めてしまった







中学の卒業式で第二ボタンを貰っただけの淡い恋は

今年の夏に再会したことで盛り上がり、付き合いに発展した

ただ、思い出を形にしてしまったことで
平坦な付き合いに飽きたのは二ヶ月後と早かった

そしてその翌月に彬と出会った薄情な私を
勝也が責めるのも仕方ない気もするけれど

今じゃないと思う



不穏な空気を割くように携帯電話が鳴る

バッグから取り出すと画面には彬の名前が表示されていた

出ようとしない私を見ていた勝也は
私の手から携帯電話を奪うと勝手に耳に当てた


「今取り込んでんだ
何度もかけてくんなよっ」


「・・・!!」


飲み込めない状況に一瞬でパニックに陥った私は

勝也に手当たり次第、ジュースやポテトを投げつけるとその勢いのまま店を飛び出した



混乱する頭は走る足を迷わせ


「・・・はぁ・・・はぁ」


気がつけばネオンが光る夜の街に迷い込んでいた

見覚えのない景色は
不安感だけを煽り、更に迷う

呼び込みの声や、媚びた甘い声
クラクションやお酒の臭いが更に五感を狂わせ

一歩も動けないほど息が上がった時には

いつの間にネオン街を抜けたのか、オフィスの犇く路地に迷い込んでいた

周りのビルの高さに目眩を覚えフラフラと座り込む


別世界に迷い込んだような虚無感に膝を抱えてみるけれど


お尻から伝わるコンクリートの冷たさに
身体が震え始め、ジャケットも持たずに飛び出したことを後悔した



「・・・馬鹿」


もう指一本だって動かせそうにない

肌の感覚もないほど冷えた身体に
意識まで朦朧としてきた







コツコツ・・・コツコツ・・・
微かに聞こえる靴音が


夢が現か・・・


持ち上げようとした目蓋さえ拒む身体は


グラリと傾いた





「・・・さん、・・・か」




薄れゆく意識の中で
彬と同じ匂いに包まれた気がした